あたしの好きな人
第9章 恋しない女
「そんなことないだろう、目が合った時から、君は物欲しそうな顔をしている」
ニヤリと笑う皓さんが、あたしの頬を掴んで、唇が寄せられた。
「……ゲームなら、キスなんかしなくてもいいでしょう?」
顔を反らせて、ため息をついた。
なんだか面倒になって来た。
横浜に来て一年、その間は仕事に慣れるのが必死で、必要以上に誰とも仲良くせず、
距離を取って過ごしていた。
岳人とも連絡を絶っている。
あれからそういうことをするのも、恐い気もしていたし、勇気もなかったのに。
……確かにあたしは物欲しそうにしてたかもしれない。
目が合った瞬間に、この人に抱かれている自分を、想像していたかもしれない。
恋愛とか結婚とか、横浜に来た時からもう、諦めている。
……あの日、岳人の前から逃げた日から、あたしはもう恋愛なんてしない。
この人もあたしと同じなんだろうか?
誘われている雰囲気なのは分かるけど、どこか冷めているような人。
あたしを抱きしめて、密着しているのに、本気でないような視線。
「……キスは嫌い?だけど、ゲームは気になっているみたいだね?どうせ帰っても一人で寂しく寝るだけなんだろう?だったら俺と気持ち良くなった方がいい」
「ちょっと、失礼ねっ!」
あと、はっきり言い過ぎ。
30代の独身てそんなモノなんだろうか。
「なんだ、彼氏でもいたのか?」
「居ないわよ!」
「じゃあ問題ないだろう、行こうか?」
腰に手を回されて、慣れた仕草でタクシーに乗り込み、
高級マンションに連れて行かれた。
……信じられない。
いきなり、はじめて会ったその日から、自分の住むマンションに連れて行かれるなんて。
生活感のない、シンプルでお洒落な家具。
無駄に広い、キングサイズなベッド。
上質そうなシーツ。
部屋に入るなり、ベッドの前に連れて行かれる。
戸惑っていると、慣れた仕草で押し倒される。
「……名前は?」
気持ちのいい肌触りの布団に寝転び、あたしの真上で皓さんが、
じっとあたしの顔を見下ろした。
「……必要ないでしょ?」
「今日、一夜限りの過ちにしようと思ってる?」
衣擦れの音がして、ブラウスのボタンがゆっくり外される。
「それでもいいでしょう、ゲームなんて下らない」