あたしの好きな人
第2章 魅力的な友人
はぁはぁという、荒い息遣い、走って来たのか、いつも涼しげな髪は乱れてて、
めったに汗を掻かない額には汗が浮かんでいた。
「……岳人?」
首を傾げながら岳人の顔を見上げると、綺麗な顔がくしゃりと崩れるようによがんだ。
「……この馬鹿っ!だから気持ちを伝えたくなかったんだ!荷物を抱えてどこに行くつもりだった?俺とはもう、友人に戻れないって、逃げるつもりだったのか!?いつものように、病院に行くだろうと行ってみれば、先生がお前が思い詰めた顔をしてたからって、心配してたから!」
「……病院に行ったの?どうして?」
「だからお前が……!」
「……先生から何か聞いたの?おばあちゃんが……っ」
「……ああ、全部聞いた、お前よりも詳しく聞いた!」
「……っ」
目頭が熱くなり、岳人の顔が見えない、ぼんやりとよがんで、視界が悪くなる。
「おばあちゃんが……!」
堪らなくなり、涙が浮かんで零れた。
岳人にまた抱きしめられて、その胸に顔を押し付けて泣きながら、
そういえば仕事行かなくていいのかと、ふと思ってしまった。
「……俺から逃げようとしたって、どうせお前の行く場所なんかたかが知れてる、お前友達少ないしな?それに今さら、逃がす訳ないだろ?どんだけ片思い続けてると思ってんだ、なめんなよ?」
考えてみればあたしの友達は、ほとんどが大学の頃からの友人だし。
みんな知られている。
「それにあいつらみんな、俺のこと応援してくれてるし、すぐに俺に連絡あるだろうなあ?」
「うそでしょう?なんでよ~?でも洋子はあたしの味方だよ~」
「ばっか、あいつが一番俺に同情してくれてんの、巽とも付き合ってる訳だから、色々筒抜け」
……くっそ、昔からの友人て、マジで最強なんじゃないの?
「……ってことで、お前はもう逃げられない、罰としてこのまま俺の店で飲むこと、決定~」
「……えっ、やだよ~、二日酔いだし、明日は仕事だし……」
「お前が有給取ってんの、知ってるし~」
「あっ、そうだった」
今の今まで忘れてた。
岳人は満足そうに笑ってから、さりげなくあたしの涙を拭ってくれた。
かくして、また、岳人に捕まり、彼の経営する店に行くことになったんだった。