あたしの好きな人
第3章 友人が本気になったら
「お前と付き合ってたのに、洋子と一度、そういう関係になった、罪悪感でお前とは付き合えなくなったんだ。……本当にごめん、でも岳人は……」
「……岳人のことは、関係ないよね?」
……ほら、やっぱり聞きたくない話だった。
昔の話、終わった話、今さら言ってもどうしようもない話。
知らないなら、知らないままでもいい話。
知らない方が良かったこともあるのに。
知らないままでも良かったんだ。
「岳人が居ないのに、岳人の話はしたくない」
「……洋子は昔、咲良のことを気にして行動していた。お前は知ってたか?お前のことが好きなやつとばかり、関係をもっていたんだ。俺はそのことに気付いて止めさせようとして、なんだかんだで、洋子のそんな一面も理解して好きになったんだ」
……そんなこと、知るわけなんかない。
あたしは何も分からないまま、付き合ってと言われて、良さそうな人とはお付き合いしてただけで。
そんなこと、今さらどうでもいいよ。
「洋子を幸せに出来るのは、巽なんだと思ってるよ、昔は色々あったかもだけど、ちゃんと結婚するんだから、しっかりお祝いするよ?」
「……良かった、本当にごめんな」
ほっとしたような笑顔で、巽はまた、忙しそうに働いた。
……どうして、あたしが、こんなに惨めな気持ちになるんだろう。
他の従業員が持って来てくれたパスタは、キャベツと蒸し鶏のクリームパスタ。
シーフードサラダだった。
それを美味しく頂いて、すぐに席を立った。
レジで従業員に会計を済ませて、はっとしたようにその人に顔を見られた。
「……咲良さん、どうしたんです?」
良く見る従業員で、まだ大学生だと、聞いたことがある。
「えっ、何が?」
「どうして泣いてるんです?」
言われて初めて、頬に流れる涙に気付いて、逃げるように、店を出た。
……潔癖だと岳人にいつか言われたのを思い出した。
自分のことを棚に上げて、他の人のことは、汚いと思うなんて、最低だ。
また、自己嫌悪に陥る。
……おばあちゃん、こんなんじゃ結婚なんてできるわけないよ。