あたしの好きな人
第3章 友人が本気になったら
朝目が覚めたら、いい匂いがした。
コーヒーの香りに、岳人の作る朝食の香りだ。
いつものように、身支度して仕事に行く準備をする。
「コーヒーと、目玉焼きの香りだっ」
台所でフライパンを揺する、岳人の背中に抱きつくようにして中身を見る。
「ちっがう、オムレツだよ」
「いぇ~い」
歓声を上げて、仕事に行くから、髪を結い上げた。
テーブルに並べられた朝食、さすがはプロの仕事だ。
「ああ、昨日店に来たみたいだな?忙しかったから、悪い、お前もすぐに帰ったんだって?もっとゆっくりすりゃあ良かったのに」
お互いに向かい合ってテーブルに座る。
頂きますして朝食を食べた。
「いや、別にお腹空いてただけだから、おばあちゃんにあんたが来た話を聞いたからさ」
「ああ、可愛いばぁちゃんだよな?なんか言ってたか?」
オムレツを食べながらなんとなく、黙ってしまう。
「……なに黙って赤くなってんだよ?」
ぺしりとおでこを軽く叩かれて、額を押さえた。
「……別に、なんでもないし、言わないし」
「ああ?なんだよそれ?絶対なんか言ってただろ?」
これはあれだ、分かってて、あたしの口から聞いてやろうという、意地悪だ。
「おばあちゃん、最近忘れっぽいし、何も言ってなかったもん」
ぷいと顔を反らせて、朝食を食べ終えて、洗い物をする。
はぁ~という、岳人のため息が背中で聞こえた。
ガタッと席を立ち、食器を持って来て、シンクに入れられる。
ついでに洗おうとして、
「咲良~」
何故だか名前を呼ばれて、後ろに立つ岳人を首だけで振り返る。
そこに岳人の形のいい唇が降って来て、軽く唇が重なり、
びっくりして固まる。
「あっ、あんた…あたしに手を出さないって言ってたよねえっ?」
涼しい顔をして、テーブルに座った岳人がコーヒーを飲む。
「ああ?キスは手ぇだしたうちに入んねぇよ?」
「いやいやいや、立派な、手を出したうちにはいっ……」
「相変わらず、潔癖だよな?いいだろうキスくらい、舌は入れてねぇんだから」
「……いや、舌とか、マジで駄目だからねっ」
はぁ~、また、岳人のため息が聞こえた。
「お前のばぁちゃんに、お前と結婚するって宣言した。ばぁちゃんも俺だったら安心するだろ?店の売り上げも悪くないし、自分の店持てたら独立できるし」