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あたしの好きな人

第3章 友人が本気になったら




会社に普通に出勤して、哲とは目が合ったけど、今まで通りの後輩として接した。

次の担当である挙式のホテルに行き、エレベーターに乗る。

うちの会社と提携している、グランドホテルで、この7階に挙式で使う会場がある。

ホテルの人との打ち合わせに赴いた。

三階でエレベーターが開き、見覚えのある、ホテルマンが無表情に入って来た。

……こないだ別れ話をされたばかりの、元カレ、西条 慶吾(さいじょうけいご)

目の覚めるような美形、モデル並みの体型に、大人の色気を纏っている。

35歳の独身で、仕事が趣味のような人だ。

このホテルで仕事上の付き合いで、なんとなく、交際するようになり、

体の関係も持たずに、一ヶ月で別れた。

一方的に別れを切り出されて、あたしはそれを了承した。

エレベーターに他に人はいなくて、二人きりの気まずい空間のまま、

お互いに何も言わずに、15階に用があるため、じっと番号を見続けた。

チンという音がして、エレベーターが止まり、そのまま出ようとして、腕が掴まれた。

「……なに?」

足を止めて振り返るけど、西条さんは何か言おうと口を開いて、

またすぐに躊躇うように口を閉ざした。

「用がないなら、行くから」

その手を振り払い、外に出た。

「……気にしてるのは、俺だけなのか……」

呟くような言葉は一瞬聞こえたけど、意味は分からずに首を傾げた。



そのまま、打ち合わせを済ませて、会場をチェックして、仕事を終えて帰る為にホテルを出た。

「……咲良!」

聞き覚えのある声に振り返って、西条さんが走って来る姿が見えた。

「……何か?」

他人行儀に言ってしまうのは、仕方ないことだろう。

あたしの冷たい視線を浴びて、西条さんは息を整えて、再びまたあたしの手を掴んだ。

今度は両手だ。

「……やっぱりまた、やり直したい。このまま別れるのなんて、我慢できないんだ」

意味が分からない。

付き合っていた時は、あたし達はそれなりに上手くやっていた。

それなのに急に別れを切り出したのは、西条さんの方なのに。

「あのね、じゃあ聞くけど、どうして急に別れたいなんて言ったの?理由くらい聞かせてくれてもいいでしょう?」

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