あたしの好きな人
第3章 友人が本気になったら
付き合ってと先に言ったのは、西条さんの方で、あたしは大体上手く行かないことが多かったから、
お試しでということで付き合っていた。
たったの一ヶ月だったけど、デートでは、映画や水族館、美術館に行き、
近い場所の温泉に日帰りで行くこともあった。
西条さんは紳士で、強引に手を出すこともなく、ホテルでディナーや、クルージングと、
大人なデートも楽しめた。
まぁ、キスくらいはあったけど。
岳人に言わせりゃ、手を出すうちに入らないみたいだしね。
「……俺が、悪かったんだ、いや、全面的に俺が悪い。今まで仕事一筋で生きて来て、恋愛することもなかったから……」
「……なんの話?」
「誰かを本気に好きになることもなかったから、急に恐くなったんだ、俺ばかりが好き過ぎて……っ」
「……そんなこと、嘘でしょう?」
西条さんは、いつもクールで、冷静な大人で。
スマートにエスコートしてただけじゃない。
「……信じられないだろうけど、咲良のことを本気で好きになったんだ。……勝手なことだとは分かっている、俺とやり直してくれ」
頭の中がごちゃごちゃして、訳が分からなくなった。
なんて言ったらいいのか分からなくて、呆然としたその時に、
「咲良は俺のなんだよ、おっさん」
聞き覚えのある声に振り返った。
珍しく岳人がスーツを着て現れた。
図々しくあたしの隣に立ち、肩を抱き寄せられる。
「……えっ?ちょっと何であんたがここに……っ?」
「ああ?親父に呼ばれて来たんだよ?売り上げ報告にな?このホテルもカミヤダイニングのなかのほんの一つ」
「……えぇっ?」
「また、君か……、大学時代からの友人だか知らないが、咲良と付き合いもせずに、邪魔するのはどうかと思うよ?」
「何だよ、ちょっと一ヶ月かそこら、付き合っただけで優位に立ってんの?俺は咲良の部屋にも昔から入りびたってるし、キスだってしょっちゅうしてるけど?」
しれっと言う岳人の発言に、頭を抱えたくなった。
嘘じゃないんだけどね?
「君達ははじめから、そういう関係だったのか?それなのに俺と付き合ったのか?」