
あたしの好きな人
第3章 友人が本気になったら
「……さん、青井さん」
会社に戻り、資料を纏めていた。
「咲良先輩、先輩?」
岳人のあんな表情、はじめて見たな……。
いつも強気で自信過剰で上から目線で…おかんで、あたしが何をやっても笑ってたのに。
「青井さん?」
気が付いたら、店長が目の前で立っていた。
ハッとして、顔を上げる。
「……えっ?は、はいっ……」
あたしの慌てた反応を見て、苦笑いする店長はかなり美人だ。
「珍しいわね?青井さんが仕事が手に付かないなんて、外は暑かったからかしら?」
季節は夏だ。
都内の外回りにはキツい季節ではあるけれど。
あたしが仕事が手に付かない……?
そんなことは……ない。
デスク回りを見て、この時間内には終わらせたかった書類が、まだ片付いてないことに気付き愕然とする。
……誰かのことを考えて、仕事が手に付かないことなんかあるか?
そう言った岳人のことを思い出す。
キス……されたことも。
これは違う、今日は特別に暑かったから。
「すいません、暑さでぼ~としてたみたいです」
「体が資本だから、気を付けてね、少し話があるのだけど、ちょっといいかしら?」
「あ、はい」
店長に促されて、席を立つ。
案内されたのは、ミーティングルーム。
白いテーブルに座らされ、そこに日野くんがすでに座ってるのを見て、首を傾げた。
部下の女の子がすぐに入って来て、冷たい緑茶が運ばれて来た。
日野くんの隣に座り、その向かい側に、店長が座った。
「……お疲れ様、今日は暑かったから、まずは冷たいお茶でも飲んでね?二人を呼んだのは、あなた達が一番安定した業績があるのと、あたし個人の意見で二人が適任だと思って呼んだのだけどね」
にっこり笑って口を開く店長が、冷たいお茶に少し口をつけた。
「大阪に新しい新店舗が出来るのよ、白いお城のような大きなチャペルもあるんだけど、来月が完成予定なんだけど。
そこの社員の教育に携わって欲しいの、1年くらいは向こうに住むことになるでしょうけど、青井さんは店長として、店長候補の教育をお願いしたいわ、日野くんはサブリーダーとして、来月には行って貰えるかしら?」
