あたしの好きな人
第3章 友人が本気になったら
「それは……短期間の異動ということでしょうか?」
入社する時に異動があるとは聞いていた。
社員には拒否出来ない、出世も約束されているのだ。
「そうね、1、2年くらいでしょう、うちも人手が欲しいから、あまり長く二人に抜けられてもキツいからね、変わりにこちらも新入社員が来るのだけどね」
「はい」
「はい……」
日野くんと顔を見合わせる。
今は7月に入って間もない、来月なんてすぐのことじゃないだろうか?
その間、おばあちゃんは?
毎年夏になると、食欲不振になり、衰弱しているのに。
一年もしないうちにおばあちゃんは……?
一年もみんなに会えない?
……ふと、岳人の顔が浮かんで首を振る。
「詳しいことはまた後で知らせるから、聞きたいことは聞いてちょうだいね?」
そこで会話が途切れて、店長はあたし達の反応を見た。
「まぁ、大阪なんてわりと近いから、そこまで気にする距離じゃないわよ、何かあっても新幹線ですぐに行ける距離だから」
笑いながら言う店長は、そういえば大阪出身だったなと思い出した。
おばあちゃんはもってあと、早くて2ヶ月だと、この前病院で言われたばかり。
せめて……もう一ヶ月。
そこまで考えて、首を振る。
何を考えてるの?
もう一ヶ月でおばあちゃんが死んで、それからならと思った?
そうじゃないでしょ?
長くて半年?
あたしの都合で、おばあちゃんの命が有るわけなんかないのに……。
ミーティングルームを出て、すぐに部下の女の子があたしのもとに走って来た。
「青井さん、病院から電話があって、すぐに来て下さいって……!」
……すうっと青ざめてしまう。
ケータイ電話は、ミーティングルームに入る前に、マナーモードにしていた。
お母さんと病院からの着信履歴が入ってて、即座に店長に説明して会社を飛び出した。