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あたしの好きな人

第3章 友人が本気になったら




タクシーを捕まえて、いつも行く病院に向かう。

昨日のおばあちゃんは元気だった。

珍しく饒舌で機嫌も良かったのに。

ケータイを取り出して、お母さんに着信履歴から電話する。

すぐにでたお母さんに怒鳴られた。


「……咲良!……遅いわよ!おかあさん、たった今……!もう、息を引き取ったわよ!」



ヒステリックな叫び声に、すすりなく声がして、頭を殴られたような衝撃に、ケータイを落としてしまう。

もう、息を引き取った?

どうして急に?

昨日はあんなに元気だったじゃない?


呆然としてまた、ケータイが鳴り響き、すぐに電話を出る。

「……咲良、さっきは悪かった、……お前、どこにいる?」

……岳人だった。

どうしてこのタイミングで?

いつもなら寝てる時間じゃないだろうか?


「おばあちゃんの病院に、今、タクシーで向かっている……」

「……!分かった」

すぐに電話は切れて、大きく息をついた。


あたしはさっき、何を考えた?

自分の都合でおばあちゃんが、……死んだらいいのにと、一瞬思わなかった?

あたしがそう願ったから?

だから……おばあちゃんは……?



いつの間にかタクシーは止まっていて、料金を払って慌ててタクシーを降りた。

病院に入って走っていたら、お母さんの姿が見えた。

「……咲良!……急いで走る必要なんかない!……もう、息を引き取ったんだから!」

「……そんなの嘘だよ、昨日はおばあちゃんすごく元気だったんだから、そんなに急になるわけないよ」

「恥ずかしいから走らないの!……容態が悪化して、個室に移されたから、部屋が違うわよ、こっちだから!」

お母さんに案内されて、いつもの病室から近い個室に入って行く。


「おばあちゃん?」

広い個室だった、いつもの病室と同じくらいの広さで、

びっくりするくらい寒い。

クーラーをガンガンに効かせている。

おばあちゃんはやけに、真っ直ぐに眠っているように感じた。

いつものように近付いて、声を掛けようとして、言葉が出なくなった。

……ここにいるのは、ただのおばあちゃんの体だけ、

おばあちゃんの心がそこにはないと、すぐに悟ってしまった。

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