あたしの好きな人
第4章 離れて気付く思い
なおもぶつぶつ言う岳人を見て、驚いて黙り込んでしまう。
あのバーの裏側がイタリアン専門店?
あの店はいつから、岳人が経営することになったんだっけ?
大学時代は家の実家から、わりと近い距離のバーでバイトしてたから。
大学卒業してからは、就職して忙しくなったから、いつの間にか、岳人のマンションか、
あたしのアパートで集まるようになり、その頃くらいからなんだろうか?
あたしってば岳人のこと、何も知らない。
黙って考えてるうちに、いつの間にか、プリンスホテルに到着してしまっていた。
岳人と一緒にタクシーから降りる。
大きなホテルを見上げる。
「ここの最上階で9つのダイニング、バーでその場でシェフが要望に合わせて、料理するスタイル、ビュッフェスタイルだから、ざっくばらんに出来るらしい」
「ああ、最近あるよね?和、洋、折衷取り揃えて、その場で料理するパフォーマンスあるし、堅苦しくもなく、好みに合わせてわざわざ別に用意する必要もないからね」
「まあ、らしいといえばらしいな」
「楽しそうでいいじゃないの、変なストレスも感じないだろうし」
「……ってことで、俺達もビュッフェだ」
さっさと中に入って行く岳人を、慌てて追いかける。
「えぇっ?ちょっと待ってよ、あたし最近夏バテというか、あんまり食欲なくって……、どうせなら上品な3つ星料理が食べたいなぁ?」
わざわざ二人でビュッフェなんて行かなくても……
そう思って言ったのに。
「久し振りに会って、そんなに痩せやがって、口答えすんな、そんなんじゃ抱き心地も悪いだろうが」
「……って、はぁっ?抱き心地って……!」
「いいから来い!」
半ば無理やり、岳人に手を繋がれて、エレベーターに乗り込んだ。