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あたしの好きな人

第4章 離れて気付く思い




ふとあたしばかり、申し訳ないと思い、岳人のお皿に和牛ステーキがないのに気付いて、

同じようにフォークに刺して、岳人の綺麗な口元に持っていく。

ぱくりと口を開けた岳人が、妙に可愛いくて、クスクス笑ってしまう。

ああ、やっぱり、好きだな。

岳人と一緒にいるのは……。

そこまで考えて、ハッとしてしまう。

……違う、一緒にいるのが楽しいだけで。

和牛ステーキを食べて、また、ビールを飲む。

あたしの口元を見て、ふっと笑う岳人が、手を伸ばして、口元を拭った。

暖かい感触にピクリと唇が震えて、胸が苦しくなった。

……なんなのよ。

いったいなんなのよ。

さっきからただのバカっぷるみたいなことばかりして、わざとなの?

どういうつもり?

ガタン、席を立つ。

「あたし、やっぱり、パスタ取って来るからね?」

逃げるように、食材を取りに向かった。

……調子狂う。

……でも、言わなきゃいけない。

あたしが大阪に、転勤するってことを……。

岳人にちゃんに言わなきゃ……。


そう思うのに、なかなかタイミングが掴めなくて、隈無くお料理を物色して、

ガッツリ、久し振りに沢山食べてしまった。

……こんなに食べたのは、久し振りかもしれない。

こんなに笑ったのも。

誰かと沢山会話したのも……。


おばあちゃん、あたしは自分の気持ちに、正直に行動していいの?

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