あたしの好きな人
第5章 新しい生活
「咲良~、お~い、聞いてる~?」
昼間のあれは何だったんだろう?
……確かに岳人だった。
あの目を引く存在感、同じコロンの香り。
フロントに確認すると、カミヤダイニングの関係者が確かに来ていたという話だったけど。
カミヤダイニングは全国に沢山ある、飲食店グループで、居酒屋、スナック、イタリアンレストランから、ホストクラブまである。
ホテルだって沢山あるのは知っている。
……どうしてここに?
「……咲良?」
上の空で夕食を食べていて、今日はあたしが哲の好きな、ハンバーグを作った。
上機嫌で食べていた哲の顔が、ふと目の前に迫る。
そのまま、綺麗な顔がゆっくり傾いて、唇が重なった。
「……っんっ、食事中はやめてよ」
すぐに顔を背けて、空いた皿を片付ける。
席を立って台所のシンクに食器を置いて、自分の残したハンバーグを、小さな皿に写してラップをする。
「……咲良さ、今日は午後からぼ~としてたけど、何かあった?明日は挙式があるのに、仕事が手についてないみたいだったけど?」
「そんなことない、明日の確認は完璧だった筈だよ、じゃないと定時に家に帰ってない」
「うん、それは優秀な部下である俺が、全部フォローしたからなんだけどね?何気に大変だったから、ご褒美が欲しいな?」
洗い物をはじめるあたしの背後に立ち、後ろから抱きしめられて、胸を揉まれる。
「え~、今日はもうよくない?明日のこともあるし……」
「……エッチに集中できそうもない?」
哲の少し大きめな瞳が、ふと意地悪に揺れた。
奪うように珍しく強引に唇が重なり、後頭部を押さえるようにして、舌が絡められる。
逃げられないような、荒々しいキス。
「……ンンッ…ハッ…んぁっ…っ」
ちゅぷ、ちゅっ…ちゅるっ…
激しく唾液が絡め合い、舌にやらしい刺激を与えられ、唇を離すと舌に唾液が糸のように絡む。
「やらしい顔、たまにはこんなキスもいいね?何も考えられないくらい、咲良の中を突きまくるけどいいよね?」
「やっ、だから今日は…―っ」
なし崩しに哲に服を脱がされそうになって、それをかわそうとした時に、
あたしのケータイが鳴り響いた。