あたしの好きな人
第5章 新しい生活
ドクンッ!
やけに心臓が早鐘をうち、表示された名前を見て、ほっと力が抜ける。
……洋子だ。
「もしもし?どうしたの?」
「……どうしたのじゃないでしょう、この薄情モノ~、急にあたしらの前から居なくなって、久し振りに電話してそれかい?」
洋子にはラインで転勤の知らせはしていたし、やり取りもちゃんとしてた筈なんだけど、
やっぱり、怒ってる?
「あ~、ごめんね、なんだかバタバタして、電話とか出来なくてさ?」
誤魔化すように笑ってしまう。
「あんたちゃんと覚えてるでしょうね?招待状渡した筈だよ手渡しで、もうすぐあたし達の結婚式なんだから、ちゃんと帰って来てお祝いしてよ?」
「……覚えているよ?ちゃんと有給取って、泊まりで帰るつもりだから、安心して?」
「本当に覚えていた?……岳人もその日はホテルに泊まるらしいから、久し振りにみんな揃うね?」
「……岳人?泊まりって、今、そっちにいないの?」
電話が鳴り、大人しくテーブルに座る哲と、一瞬目が合った。
「薄情モノの咲良には何も教えてあげない、気になるのなら、自分で連絡すれば?」
「あたしが岳人に連絡することは、何もないから」
「そうよね、あんたは自分のことでいっぱいいっぱいで、あたし達がどんだけ心配したのかも考えなくて、岳人からも逃げたんだもんね?」
「……ごめん」
「あたしに謝らないでよ」
そこで会話が途切れて、結婚式にちゃんと行く約束をして通話を切った。
黙っている哲と目が合い、何か言おうとして、
「あたし、シャワー浴びて来るね?」
気持ちを落ち着かせるために、お風呂に入った。