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あたしの好きな人

第6章 怒りの矛先




トイレに行って、手を洗って鏡の中の自分を見つめる。

……なんだか全体的に赤い顔をしている、飲み過ぎた訳じゃない。

岳人にときめいてる顔。

ずっとこんな顔をしていたの?

こんな顔、岳人には見せられない、顔に好きだと書いてるようで、ひどく恥ずかしい。

……どうしよう、

やっぱり好きだ……。

久し振りに会って、余計に気持ちが強くなる。

なにごともなかったみたいな、岳人の態度に安心していた。

でも何も思ってはない筈だ。


ぐるぐるとした思考になりそうで、はっとして、鏡の中の自分の頬を叩いた。

岳人に会って、ちゃんと話をする為に来た筈だ。

……話さなきゃ。

ここにずっといても、しょうがない。

気が付いたら、長い間トイレにいた。

それに気付いて、やっと、トイレから出ることにする。



化粧室から出て、披露宴会場に戻ろうと歩いてたとこだった。


「……咲良!」


岳人の焦ったような叫び声に、驚いて顔を上げた。

珍しく髪を乱して、岳人が走って、あたしの傍に来た。

「岳人?」

どうしたのかと思い、岳人の様子にぽかんとしてしまう。

「……おっ、前…!……また、どこかに消えたのかと思うだろ!おせぇよ!」

「……えっ?……あっ…ごめん」

はっとして気付いた、岳人の前から、何も言わずにあたしが消えたから……。

あたしの反応を見て、岳人の切れ長の瞳が、鋭く吊り上がる。

ドンッ!

突き飛ばす勢いで両手を掴まれて、壁に体を押し付けられた。

ちっという、イライラした舌打ちにびくりとする。

自分を落ち着かすように、俯いて、呼吸を整える岳人を見て、胸が痛んだ。

「……涼しい顔しやがって、ムカつく!」

吐き出すように呟いて、顔を上げて、鋭く光る視線が絡まりギクリとした。

両手首を壁に縫い止めるように、押し付けられて、岳人の体も押し付けられた。

そのまま綺麗な顔が傾き、荒々しく唇が押し付けられた。

「……!」

チュッ、ぬにゅ、ちゅくちゅく、ちゅう……

濃厚な激しいキス、熱い舌が絡められ、抗うあたしの手首を掴む力が増し、

ますます深くなるキスに、頭の中がくらくらしてしまう。

「ふぁ……んん~~~~~」

甘い声が上がり、しゃがみ込みそうになり、唇がゆっくりと離れる。

お互いの唾液が糸を引くように繋がり、睨むように見つめられた。

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