あたしの好きな人
第6章 怒りの矛先
その後のあたしは上の空、元の席に戻り、料理もろくに手が付かず、
洋子と巽にはしっかりお祝いの言葉をかけて、洋子に背中をどつかれて、
泣きながら、抱きしめられてしまった。
「……もう、いい加減、心配ばかり掛けさせないでよっ!」
「ごめん、ごめんね……」
「洋子は咲良が大好きだからな、俺が嫉妬するくらい、お前のこと考えてるんだから」
巽が笑いながらそう言って、その瞳が潤んでいるのに気付いた。
久し振りに会った洋子は、相変わらず可愛い顔なのに、エロい体つきで、
妊娠してるようには見えない。
「……それからねぇ、哲っていうやつ、あの子に関わっちゃダメ、ヤバいよあの子、普通じゃない……」
どうして洋子が哲のこと、知っているんだろう。
首を傾げるあたしの前で、岳人がぴくりと反応する。
また、ギンギンに睨まれてるんですけど。
「だからしっかり、離すんじゃないわよ」
洋子が岳人の背中を叩き、ブーケが直接渡されてしまった。
女友達のジェラシーの視線に囲まれて、焦って口を開く。
「そんな手渡しとか、投げたりした方が……」
「今更もう遅いだろ?」
何故だか岳人が近くに来て、みんなに口々に次はあんたたちの番よと拍手までされてしまった。
岳人はそんなあたしの手を、ずっと繋いだまま、披露宴が終わるなり、
「話がある」
掴まったまま、ホテルの部屋に連れて行かれる。
エレベーターに乗り、以前行った、同じ階だと気付いた。
「……話って、わざわざ部屋に行かなくても、どっかバーとかで……」
「また逃げられても困るからな」
「……!」
何も言えない、言う資格もない。
エレベーターから降りると、やっぱり前と同じ部屋で、
景色を楽しむ余裕もなく、あたしの体を放り込むように、ベッドに突き飛ばされる。
短い悲鳴を上げて、さすがに酷いと、抗議しようとして、
ベッドの上に薔薇の花束があるのに、気付いた。
「さあ、話……聞かせて貰おうか?」
睨むように鋭く見つめられて、岳人が着ているスーツのジャケットを脱ぎ捨てた。
それだけじゃなく、ネクタイを外し、シャツのボタンを外している。
「ちょ…と、話するのになんで脱ぐ必要があるのよ!」
「必要あるだろ?今からお前を抱くんだからな?」