あたしの好きな人
第6章 怒りの矛先
「いやいやいやっ、ちょっと待って、そんな…あれからあたしも色々あったし……っ!」
「ああ?お前に今彼氏がいようと、婚約者がいようと、旦那がいようと、関係ねぇんだよ、こちとらどんだけお前を探して、この日を待ったんだと思ってんだよ!」
キシリと音をたてて、ベッドに乗り込む岳人。
鋭く光る視線はあたしを射ぬくように、強い熱を孕み、野性的な獣のようにあたしの体に触れた。
獣の前足にのしりと押さえ込まれて、逃げられない予感にぞくぞくする。
花束を掴んで、岳人の体に叩きつけた。
いつかのように、花束が散り、ベッドの上で花びらが舞う。
ふっと笑う岳人。
「馬鹿のひとつ覚えか?」
花束を取り上げられて、しゅるりとリボンをほどき、あたしの手首に巻き付かれてしまった。
「……えっ?なにこれ、なにこれ?なんで?」
軽くパニックになり、ニヤリと岳人が人の悪い笑いを浮かべた。
「こうすれば逃げられない、最初からこうしとけば良かったんだ、お前がどこにも行かないように、家で囲って、籠の鳥にして、餌を与えてな」
手首のリボンを、ベッドにくくりつけて、腕であたしを囲うようにして、
じっとギラギラした目で見下ろされて、岳人がそれだけ怒ってるのだと気付いた。
「……岳人なら、何されてもいいよ、やっぱりあたしは、岳人のことが好きだから……」
あたしがそう言うと、岳人は驚いたように、目を見開き、食い入るように、見つめられた。
一瞬何かを耐えるように俯いて、少し黙って、次に顔を上げた瞬間、胸元のドレスを掴み、引きちぎられてしまった。
ビリビリという、絹をさく激しい音に、胸が締め付けられる。
「だったらどうして、あいつと一緒に暮らしている!?転勤なら仕方ないと思ってたけど、セフレの関係とかおかしいだろ!?お前はそんな女じゃない筈だ」
どうしてそんなことを知ってるんだろう?
そう言えば洋子も哲を知ってるようだった。
ひょっとしたら洋子が心配して、色々調べたのかもしれない。
相変わらずのお節介な幼馴染みに、不愉快にはならない。
いずれ分かることだし、自分からも話してしまおうと思っていたから。
話は早い方がいい。
「あたしは……そんな女だよ、そんな女になっちゃったんだよ」