
氷華~恋は駆け落ちから始まって~
第5章 彷徨(さまよ)う二つの心
粗末なパジチョゴリを着ていてでさえ、トンジュは両班の若者たちにはない圧倒的な存在感を持っていた。彼らとトンジュでは所詮、駄馬と駿馬ほども格が違った。
「この女は俺たちが先に見つけたのだ」
若者の一人が立ち上がり、トンジュを威嚇するように言った。
「生憎だったな。こいつは俺の女房なんだ。判ったら、さっさと手を放して、お引き取り願おうか」
トンジュは怯みもせず、淡々と返す。
「いやだ、と言ったら、どうする?」
男が不遜に言いはなった。
「ホホウ、仮にも両班のご子息が人妻を強奪するのか?」
トンジュの声音はどこまでも静謐だった。だが、サヨンは知っている。この男は怒れば怒るほど、より冷静になってゆくのだ。
「幾らだ? 幾ら出せば、この女を譲ってくれるのだ?」
最初の男が言うのに、傍らから別の男が止めた。
「おい、何もそこまでしなくとも良かろう。町の妓楼にゆけば、良い女はごまんといる。ここはもう引き上げるとしよう」
「いや、俺はこの女がひとめで気に入った。この女でなければ駄目だ」
最初の男が首を振り、トンジュを睨(ね)めつけた。
「俺がそなたからこの女を買い取ろう。幾らで売る?」
あまりの話の展開に、サヨンは怖ろしさに身を震わせながら男たちのやりとりを見守っていた。
まさか、トンジュは自分を売るつもりなのだろうか。一向に靡かないかわいげのない女など、彼にとって疎ましいだけだとしても不思議はない。
サヨンは固唾を呑んでトンジュを見つめた。
「―断る」
トンジュは低いけれど、断固とした口調で応えた。
「妻は品物や玩具ではない」
「そなた、両班の命に逆らうのか!?」
居丈高に言う男に対して、トンジュは激する様子もなく応えた。
「この女は俺たちが先に見つけたのだ」
若者の一人が立ち上がり、トンジュを威嚇するように言った。
「生憎だったな。こいつは俺の女房なんだ。判ったら、さっさと手を放して、お引き取り願おうか」
トンジュは怯みもせず、淡々と返す。
「いやだ、と言ったら、どうする?」
男が不遜に言いはなった。
「ホホウ、仮にも両班のご子息が人妻を強奪するのか?」
トンジュの声音はどこまでも静謐だった。だが、サヨンは知っている。この男は怒れば怒るほど、より冷静になってゆくのだ。
「幾らだ? 幾ら出せば、この女を譲ってくれるのだ?」
最初の男が言うのに、傍らから別の男が止めた。
「おい、何もそこまでしなくとも良かろう。町の妓楼にゆけば、良い女はごまんといる。ここはもう引き上げるとしよう」
「いや、俺はこの女がひとめで気に入った。この女でなければ駄目だ」
最初の男が首を振り、トンジュを睨(ね)めつけた。
「俺がそなたからこの女を買い取ろう。幾らで売る?」
あまりの話の展開に、サヨンは怖ろしさに身を震わせながら男たちのやりとりを見守っていた。
まさか、トンジュは自分を売るつもりなのだろうか。一向に靡かないかわいげのない女など、彼にとって疎ましいだけだとしても不思議はない。
サヨンは固唾を呑んでトンジュを見つめた。
「―断る」
トンジュは低いけれど、断固とした口調で応えた。
「妻は品物や玩具ではない」
「そなた、両班の命に逆らうのか!?」
居丈高に言う男に対して、トンジュは激する様子もなく応えた。
