
氷華~恋は駆け落ちから始まって~
第5章 彷徨(さまよ)う二つの心
「嘆かわしいことだな。お前たち両班はただ生まれや身分が良いというそれだけの理由で、俺ら庶民に威張り腐っている。両班というのは、下々の見本になるような正しい行いをしなければならないんじゃないか? それが威張るだけは威張って、見本どころか平気で人の道に外れた行いをしている。あんたらみたいな連中がいずれ、この国を動かしていくんだと考えただけで、ゾッとするね。常識のなんたるかも知らない人間に、まともな政治ができるとは思えない」
「お、お前っ。一体、誰に向かって物を言っているのか判ってるんだろうな」
男は怒りにわなわなと震えている。たかだか一介の民にここまであからさまに罵倒されたのがよほど悔しかったらしい。
「沈(シム)清(チヨン)勇(ヨン)さまの跡取り息子勇(ヨン)民(ミン)だろう? 村娘、若妻、気に入った女がいれば見境なく攫って慰み者にする―、若さまの悪名はここら一帯には轟いているからね。世情に疎い俺だって知ってますよ」
トンジュは平然と弾じた。
「おのれ、もう我慢ならぬ」
男―沈勇民がトンジュに飛びかかった。拳がトンジュの頬に炸裂するかと思いきや、トンジュは難なく交わした。
「そんなへっぴり腰では、喧嘩はできませんよ」
トンジュはうっすらと笑みさえ湛えて、今度は自分が勇民の頬を張った。
「―く、くそう」
最初、何が起こったか判らないらしい勇民は茫然と頬を押さえていた。
「身の程も知らぬ無礼者めが」
怒りに真っ赤になり、勇民はトンジュに再び向かってきた。トンジュは勇民の胸倉を掴むと、ひょいと持ち上げた。まるで大人が子どもを持ち上げるように危なげのない手つきだ。
「あんたのように能なしのくせに威張り散らしてる奴が俺は昔から大嫌いだった」
トンジュが手を放すと、勇民のもやしのような身体は岩場にたたきつけられた。
「あんたがどんなたいしたことをしたからって、両班に生まれたんだ? 俺がどんな罪を犯したからって、両班になれなかったんだ?」
トンジュは勇民の上にのしかかると、彼の頬を何度も殴った。
「反吐が出そうなんだよ。お前らを見てるとさ」
後の二人の男たちは勇民を助ける気概はさらさらないらしく、木偶の坊よろしく黙って少し離れた場所に立っているだけだ。
「お、お前っ。一体、誰に向かって物を言っているのか判ってるんだろうな」
男は怒りにわなわなと震えている。たかだか一介の民にここまであからさまに罵倒されたのがよほど悔しかったらしい。
「沈(シム)清(チヨン)勇(ヨン)さまの跡取り息子勇(ヨン)民(ミン)だろう? 村娘、若妻、気に入った女がいれば見境なく攫って慰み者にする―、若さまの悪名はここら一帯には轟いているからね。世情に疎い俺だって知ってますよ」
トンジュは平然と弾じた。
「おのれ、もう我慢ならぬ」
男―沈勇民がトンジュに飛びかかった。拳がトンジュの頬に炸裂するかと思いきや、トンジュは難なく交わした。
「そんなへっぴり腰では、喧嘩はできませんよ」
トンジュはうっすらと笑みさえ湛えて、今度は自分が勇民の頬を張った。
「―く、くそう」
最初、何が起こったか判らないらしい勇民は茫然と頬を押さえていた。
「身の程も知らぬ無礼者めが」
怒りに真っ赤になり、勇民はトンジュに再び向かってきた。トンジュは勇民の胸倉を掴むと、ひょいと持ち上げた。まるで大人が子どもを持ち上げるように危なげのない手つきだ。
「あんたのように能なしのくせに威張り散らしてる奴が俺は昔から大嫌いだった」
トンジュが手を放すと、勇民のもやしのような身体は岩場にたたきつけられた。
「あんたがどんなたいしたことをしたからって、両班に生まれたんだ? 俺がどんな罪を犯したからって、両班になれなかったんだ?」
トンジュは勇民の上にのしかかると、彼の頬を何度も殴った。
「反吐が出そうなんだよ。お前らを見てるとさ」
後の二人の男たちは勇民を助ける気概はさらさらないらしく、木偶の坊よろしく黙って少し離れた場所に立っているだけだ。
