氷華~恋は駆け落ちから始まって~
第5章 彷徨(さまよ)う二つの心
「ご主人、この家には病人がおられませんか?」
主人が不審そうな眼でサヨンを見た。
「何だ、他人の家のことを調べたのか?」
「違いますよ、今日の昼間、このお店の前を通りかかった時、ご主人が隣の筆屋のおかみさんと病気のお母さんのことを話していたでしょう。私はそれを聞いていたんです」
「ふん、それで、お前さんがお袋の病を治せるとでも?」
サヨンは勢い込んだ。
「私の良人は薬草に関して様々な知識を持っています。一度だけですが、名医と呼ばれるお医者さまが見放した病人の生命を救ったことがあります。きっと、お母さんの病を治す手立ても見つけられると思うのです。私が得た全額の三分の一と、それから、お母さんを無料で診て適切な薬を差し上げる、その二つでどうでしょうか?」
主人はしばし思案顔だったが、頷いた。
「良いだろう。うちにある草鞋でお袋の生命が助かるなら、安いものだ。頼むよ。ただし、お前さんの言葉が真っ赤な嘘だったり、約束を守らなかったりしたら、すぐに役所に突き出すぞ、それで良いんだな?」
はい、と、サヨンは力強く頷き、深々と頭を下げた。二日後の夜に草鞋を取りにくると約束して、履き物屋を出た。
それから足早にトンジュの待つ山へと向かったのだった。
主人が不審そうな眼でサヨンを見た。
「何だ、他人の家のことを調べたのか?」
「違いますよ、今日の昼間、このお店の前を通りかかった時、ご主人が隣の筆屋のおかみさんと病気のお母さんのことを話していたでしょう。私はそれを聞いていたんです」
「ふん、それで、お前さんがお袋の病を治せるとでも?」
サヨンは勢い込んだ。
「私の良人は薬草に関して様々な知識を持っています。一度だけですが、名医と呼ばれるお医者さまが見放した病人の生命を救ったことがあります。きっと、お母さんの病を治す手立ても見つけられると思うのです。私が得た全額の三分の一と、それから、お母さんを無料で診て適切な薬を差し上げる、その二つでどうでしょうか?」
主人はしばし思案顔だったが、頷いた。
「良いだろう。うちにある草鞋でお袋の生命が助かるなら、安いものだ。頼むよ。ただし、お前さんの言葉が真っ赤な嘘だったり、約束を守らなかったりしたら、すぐに役所に突き出すぞ、それで良いんだな?」
はい、と、サヨンは力強く頷き、深々と頭を下げた。二日後の夜に草鞋を取りにくると約束して、履き物屋を出た。
それから足早にトンジュの待つ山へと向かったのだった。