氷華~恋は駆け落ちから始まって~
第6章 運命を賭ける瞬間(とき)
山上に着いたときは、既に明け方近くなっていた。我が家は、薄蒼い朝の空気の中にひっそりと建っていた。たった一日離れていただけなのに、十年も離れていたような気がする。サヨンにとっては、もうこの家こそが我が家であった。
扉を静かに開けると、夜具に胡座をかいていたトンジュが素早く立ち上がった。
「サヨン、一体、どこで何をしていたんだ!」
サヨンは微笑んだ。
「ごめんなさい、心配をかけてしまったわ」
「俺は、俺は―」
トンジュが口を開きかけ、込み上げてくる感情を飲み込むようにつぐんだ。
「俺がどれだけ心配したと思ってるんだ。途中で何か怖ろしいことに巻き込まれたのか、それとも、また俺がいやになって逃げ出したのかと、あれこれ気を揉んだんだぞ?」
「私はもう逃げないわ。第一、逃げる気なら、森だって今は抜けられるのだから、とっくに逃げていたわよ」
「そうだな」
トンジュが溜息をつき、頷いた。夜中眠れなかったのだろう、顔色が悪かった。
「まだ怪我が癒えたばかりなんだもの。眠らないと、身体に悪いわよ」
「だが、帰ってこないお前のことを考えると―」
ふいに、サヨンはトンジュに抱きついた。トンジュが愕いて眼を丸くする。
「おい、何なんだ。いきなり」
「トンジュ、はっきりと言うわ。私が帰る場所はこの世に、もう一つしかない。それは、あなたの側だけよ」
「サヨン」
トンジュの声がかすかに揺れた。
「あなたのいる場所が私の家になるの。愛しているわ、あなたが私を求めてくれるのに負けないくらいに私もあなたを必要としている」
「信じても良いのか?」
「当たり前よ。私が今まで、あなたに嘘をついたことがある?」
トンジュがサヨンを痛いくらいに抱きしめ、豊かな黒髪に顎を押し当てた。しばらくサヨンは愛しい男の腕に身を委ねていたが、やがて、そっと離れた。
「トンジュ、大切な話があるの、聞いて」
サヨンはそれから攫われて監禁された沈家の屋敷で聞いた例の密談について話した。
扉を静かに開けると、夜具に胡座をかいていたトンジュが素早く立ち上がった。
「サヨン、一体、どこで何をしていたんだ!」
サヨンは微笑んだ。
「ごめんなさい、心配をかけてしまったわ」
「俺は、俺は―」
トンジュが口を開きかけ、込み上げてくる感情を飲み込むようにつぐんだ。
「俺がどれだけ心配したと思ってるんだ。途中で何か怖ろしいことに巻き込まれたのか、それとも、また俺がいやになって逃げ出したのかと、あれこれ気を揉んだんだぞ?」
「私はもう逃げないわ。第一、逃げる気なら、森だって今は抜けられるのだから、とっくに逃げていたわよ」
「そうだな」
トンジュが溜息をつき、頷いた。夜中眠れなかったのだろう、顔色が悪かった。
「まだ怪我が癒えたばかりなんだもの。眠らないと、身体に悪いわよ」
「だが、帰ってこないお前のことを考えると―」
ふいに、サヨンはトンジュに抱きついた。トンジュが愕いて眼を丸くする。
「おい、何なんだ。いきなり」
「トンジュ、はっきりと言うわ。私が帰る場所はこの世に、もう一つしかない。それは、あなたの側だけよ」
「サヨン」
トンジュの声がかすかに揺れた。
「あなたのいる場所が私の家になるの。愛しているわ、あなたが私を求めてくれるのに負けないくらいに私もあなたを必要としている」
「信じても良いのか?」
「当たり前よ。私が今まで、あなたに嘘をついたことがある?」
トンジュがサヨンを痛いくらいに抱きしめ、豊かな黒髪に顎を押し当てた。しばらくサヨンは愛しい男の腕に身を委ねていたが、やがて、そっと離れた。
「トンジュ、大切な話があるの、聞いて」
サヨンはそれから攫われて監禁された沈家の屋敷で聞いた例の密談について話した。