氷華~恋は駆け落ちから始まって~
第6章 運命を賭ける瞬間(とき)
「これをお前が書いたの?」
「そうよ、実際に診て処方するにしても、まずは詳しい容態を知っておいた方があなたが診断しやすいと思ったの」
トンジュは溜息混じりに首を振った。
「いやはや、サヨンには参ったよ。もしかしたら、俺は大変な嫁さんを貰ったのかもしれない」
「何よ、それ。相変わらず全然褒められている気がしないんだけど?」
サヨンが頬を膨らませ、トンジュがそれを指でつつく。二人は顔を見合わせて微笑み合う。
「それにしても、沈勇民の野郎、今度、サヨンに手を出したら、ただでは済まないとあれだけ言っておいたのに」
サヨンが勇民に攫われたと聞いたトンジュは、どうもそのことが頭から離れないようだ。
「今はあんな男のことなんて、どうでも良いわよ。それに、あの人のお陰で途方もない儲け話が転がってきたんだから」
沈家の屋敷にいなければ、国王の弟が地方両班と結託して兄王に謀反を働く―などという怖ろしい謀などとは一生無縁だったはずだ。
「かなり危ない橋だと思うが、本当にうまくやれる自信はあるのか?」
トンジュが頭の回転は良いが、いささか無謀すぎる妻に問うと、サヨンは艶やかに微笑んだ。
「お父さまがよく言っているの。商談を決めるときには、八割が誠意をもって引き受けた仕事を全うしようという真心と義務感―その中にはもちろん成功する目算も入っているけど、あとの二割は何とかなるさくらいの開き直りが必要だって」
「ふうん、大行首さまがそんなことを言っていたのか」
トンジュはしきりに頷いている。
「やはり血は争えないな。サヨンの愕くほどの頭の回転の良さと大胆さは、大行首さまゆずりだったんだ」
「何か言った?」
「いや、このままでは気が済まないから、沈勇民の奴をやはり、漢江に投げ込んで鰐のえさにしてやろうと言ったのさ」
トンジュは笑いながら応えた。
心地よい沈黙がふいに訪れ、二人を包み込んだ。
サヨンは視線に気づき、面を上げた。トンジュの物言いたげな黒瞳がサヨンを無心に見つめている。
「そうよ、実際に診て処方するにしても、まずは詳しい容態を知っておいた方があなたが診断しやすいと思ったの」
トンジュは溜息混じりに首を振った。
「いやはや、サヨンには参ったよ。もしかしたら、俺は大変な嫁さんを貰ったのかもしれない」
「何よ、それ。相変わらず全然褒められている気がしないんだけど?」
サヨンが頬を膨らませ、トンジュがそれを指でつつく。二人は顔を見合わせて微笑み合う。
「それにしても、沈勇民の野郎、今度、サヨンに手を出したら、ただでは済まないとあれだけ言っておいたのに」
サヨンが勇民に攫われたと聞いたトンジュは、どうもそのことが頭から離れないようだ。
「今はあんな男のことなんて、どうでも良いわよ。それに、あの人のお陰で途方もない儲け話が転がってきたんだから」
沈家の屋敷にいなければ、国王の弟が地方両班と結託して兄王に謀反を働く―などという怖ろしい謀などとは一生無縁だったはずだ。
「かなり危ない橋だと思うが、本当にうまくやれる自信はあるのか?」
トンジュが頭の回転は良いが、いささか無謀すぎる妻に問うと、サヨンは艶やかに微笑んだ。
「お父さまがよく言っているの。商談を決めるときには、八割が誠意をもって引き受けた仕事を全うしようという真心と義務感―その中にはもちろん成功する目算も入っているけど、あとの二割は何とかなるさくらいの開き直りが必要だって」
「ふうん、大行首さまがそんなことを言っていたのか」
トンジュはしきりに頷いている。
「やはり血は争えないな。サヨンの愕くほどの頭の回転の良さと大胆さは、大行首さまゆずりだったんだ」
「何か言った?」
「いや、このままでは気が済まないから、沈勇民の奴をやはり、漢江に投げ込んで鰐のえさにしてやろうと言ったのさ」
トンジュは笑いながら応えた。
心地よい沈黙がふいに訪れ、二人を包み込んだ。
サヨンは視線に気づき、面を上げた。トンジュの物言いたげな黒瞳がサヨンを無心に見つめている。