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氷華~恋は駆け落ちから始まって~

第6章 運命を賭ける瞬間(とき)

 二人の視線が交差したその時、トンジュの瞳がふっと翳った。静かすぎるほどの瞳の奥底にはげしい欲情の焔がほの見えている。
 やがて二人はどちらからともなく唇を重ね合った。最初は鳥がついばむような口づけはすぐに貪るような深いものに変わってゆく。
 トンジュにそっと押し倒され、サヨンは無を瞑った。淡い闇の底の底で衣擦れの音が妖しく響き、時折、サヨンのあえかな吐息や呻きが混じった。
 トンジュの逞しい身体にまたがり、サヨンは男の黒髪に両手を差し入れる。男の頭を引き寄せ自分からそっと口づけると、初めて見せるサヨンの積極的な反応にトンジュの理性のたがが外れたらしい。トンジュはサヨンをこれでもかときつく抱きしめ、烈しく突き上げた。最奥の敏感な部分を幾度も責め立てられ、サヨンはほどなく頂点に上りつめた。
 瞼に極彩色の無数の泡が弾け、まるで大きな波にさらわれ、極限の高みまで持ち上げられて更に、一挙に振り落とされるような感覚。息をも満足にできない果てしない快感が連続して彼女を見舞う。
 トンジュの動きは多彩を極めた。あるときは鋭い切っ先がサヨンの奥を刺し貫き、あるときは腰を回して角度を変え、繊細な襞深くを分け入り、彼女のいちばん感じやすい敏感な場所をかき回す。
 その合間には、熱い手のひらがサヨンの乳房を強弱をつめて揉みしだくのだ。
 初めての頂点に達したと思うまもなく、サヨンの火照った身体は忽ち切なさに飲み込まれ、次の頂点に達するのだった。
 いつしか二人の身体はうっすらと汗ばんだ。それでも、まだ足りないと言いたげにトンジュは飽くことなく貪欲にサヨンを求め、彼女の中で抽送を繰り返した。
「あ、あぁ―う」
 サヨンの桜色の唇からこぼれ落ちる切ない喘ぎをトンジュはすかさず唇で塞ぎ吸い取ってゆく。迫り来る瞬間を少しでも引き伸ばしたいとでもいうかのように、二人は夜通し求め合い、身体を重ねた。
 
 沈清勇と義承大君が決起すると言っていた日まで、あと二日しかない。人任せにだけする気にはなれず、サヨンは自分も草鞋を編み始めた。懸命に草鞋を編み続けるサヨンを見て、トンジュも傍らに来て編み始める。
 まだ体調が十分ではないのだとからと止めても、トンジュは笑って首を振るだけだ。二人は並んで一日中、草鞋を編み続けた。

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