
氷華~恋は駆け落ちから始まって~
第6章 運命を賭ける瞬間(とき)
ついに決行の日の前日になった。
町には一人で行くと言うサヨンに、トンジュは絶対に駄目だと言い張る。サヨンはトンジュの身体をひたすら心配した。まだ傷口が漸く塞がったばかりなのだ。無理は禁物なのは判っていた。
だが、サヨンに負けず劣らず、トンジュも頑固だ。
「どうしても一人で行くというのなら、俺はお前を町には行かせないぞ」
トンジュは、肩を怒らせてサヨンの前に立ち塞がった。その決然とした表情からは、力ずくでも止めようという覚悟が表れている。ここまで言う男を止めることはできなかった。
昼過ぎにサヨンはトンジュと共に山を下りた。町に入ったのは西の空が茜色に暮れなずむ頃である。目指すのは例の履き物屋であった。
でっぷりと肥えた店の主人は、サヨンを待っていたように出迎えた。
「草鞋の方は用意してあるぞ」
奥の倉庫に連れてゆかれた二人は、息を呑んだ。眼前には、草鞋の山が築かれている。何百足どころか、何千足とあるに違いない。
この間の主人の〝漢陽中の人間が履けるくらいの数〟というのは満更、嘘ではなかったのだ。
「こんなに?」
サヨンは草鞋の山に圧倒されながら言った。
主人が誇らしげに応える。
「商人は嘘をつかないものだよ」
そう言って腹を揺すって笑った後、こう付け加えた。
「お前さんが帰ってから、すぐに町中の履き物屋に連絡を取って、集められるだけの草鞋を集めたのさ。こう見えても、儂はこの辺りの履き物屋の中では顔が利くのさ。皆、代金は後払いで良いからと快く出してくれたよ」
サヨンは主人の意図を計りかね、用心深く言った。
「これだけの草鞋をご用意して頂けるとは正直、考えていませんでした。でも、はっきり申し上げて、私たちに、これだけの草鞋に見合うだけのお金をご用意できるかどうかは判らないのです」
せいぜいが何百足程度のものだろうと思っていたのだ。まさか、千足単位の草鞋が出てくるとは予想だにしなかった。
町には一人で行くと言うサヨンに、トンジュは絶対に駄目だと言い張る。サヨンはトンジュの身体をひたすら心配した。まだ傷口が漸く塞がったばかりなのだ。無理は禁物なのは判っていた。
だが、サヨンに負けず劣らず、トンジュも頑固だ。
「どうしても一人で行くというのなら、俺はお前を町には行かせないぞ」
トンジュは、肩を怒らせてサヨンの前に立ち塞がった。その決然とした表情からは、力ずくでも止めようという覚悟が表れている。ここまで言う男を止めることはできなかった。
昼過ぎにサヨンはトンジュと共に山を下りた。町に入ったのは西の空が茜色に暮れなずむ頃である。目指すのは例の履き物屋であった。
でっぷりと肥えた店の主人は、サヨンを待っていたように出迎えた。
「草鞋の方は用意してあるぞ」
奥の倉庫に連れてゆかれた二人は、息を呑んだ。眼前には、草鞋の山が築かれている。何百足どころか、何千足とあるに違いない。
この間の主人の〝漢陽中の人間が履けるくらいの数〟というのは満更、嘘ではなかったのだ。
「こんなに?」
サヨンは草鞋の山に圧倒されながら言った。
主人が誇らしげに応える。
「商人は嘘をつかないものだよ」
そう言って腹を揺すって笑った後、こう付け加えた。
「お前さんが帰ってから、すぐに町中の履き物屋に連絡を取って、集められるだけの草鞋を集めたのさ。こう見えても、儂はこの辺りの履き物屋の中では顔が利くのさ。皆、代金は後払いで良いからと快く出してくれたよ」
サヨンは主人の意図を計りかね、用心深く言った。
「これだけの草鞋をご用意して頂けるとは正直、考えていませんでした。でも、はっきり申し上げて、私たちに、これだけの草鞋に見合うだけのお金をご用意できるかどうかは判らないのです」
せいぜいが何百足程度のものだろうと思っていたのだ。まさか、千足単位の草鞋が出てくるとは予想だにしなかった。
