
氷華~恋は駆け落ちから始まって~
第1章 始まりの夜
それだけではない、サヨンの逃亡を助けるためにも多大な犠牲を払った。万が一、捕まったとしても、サヨンの身は無事だが、恐らくトンジュの生命はない。二人して捕まったときの顛末を考えると、サヨンはトンジュに心底申し訳ないと思うのだった。
「どれ、少し見てみましょう」
トンジュがそう言って、屈み込む。いきなりチマの裾を捲られ、サヨンは声にならない声を上げた。
「何をするの!?」
「脚が痛むのなら、どうなっているのか実際に見てみないと判りませんよ」
トンジュの声はやはり何の感情も窺えず、平坦だ。
唖然としているサヨンには構わず、トンジュはサヨンがチマの下に穿いているズボンまで捲ろうとした。
「止めて」
サヨンは脚を引っこめようとするが、強引な手は脹ら脛から離れようとしない。トンジュはサヨンの脚を眺め、淡々とした様子で告げた。
「腫れていますね。塀に上るときにでも挫いたのかもしれない」
なるほど、自分の眼にも右の脹ら脛から足首にかけて薄赤く腫れているのが判った。
「すぐにでも、ちゃんとした手当をした方が良いのですが、今はどうにもなりません」
トンジュは懐から小さな巾着を取り出した。中から小振りな容器を出し、蓋を開けている。
「これは私の生まれた村に古くから伝わる薬ですよ。打ち身や捻挫にとてもよく効くんです」
トンジュは言いながら、再びしゃがみ込んだ。どうやら、この薬を塗るらしい。
「―きれいな脚だ」
ふいに、そろりと脹ら脛を撫でられ、サヨンはピクリと身を震わせた。
「トンジュ? 薬を塗ってくれるのではないの?」
サヨンが訝しげに問うのに、トンジュは頷いた。
「私の村は都から少し離れた場所にありますが、はるか昔から様々な薬草を採って、それを売って生計を立ててきたのです。これを塗れば、何とか悪化させずに歩き続けることができるかもしれない」
「そういえば、トンジュの生まれ故郷の話を聞くのは初めてだわ」
少しだけ興味を引かれて訊ねると、彼は淡く微笑った。
「どれ、少し見てみましょう」
トンジュがそう言って、屈み込む。いきなりチマの裾を捲られ、サヨンは声にならない声を上げた。
「何をするの!?」
「脚が痛むのなら、どうなっているのか実際に見てみないと判りませんよ」
トンジュの声はやはり何の感情も窺えず、平坦だ。
唖然としているサヨンには構わず、トンジュはサヨンがチマの下に穿いているズボンまで捲ろうとした。
「止めて」
サヨンは脚を引っこめようとするが、強引な手は脹ら脛から離れようとしない。トンジュはサヨンの脚を眺め、淡々とした様子で告げた。
「腫れていますね。塀に上るときにでも挫いたのかもしれない」
なるほど、自分の眼にも右の脹ら脛から足首にかけて薄赤く腫れているのが判った。
「すぐにでも、ちゃんとした手当をした方が良いのですが、今はどうにもなりません」
トンジュは懐から小さな巾着を取り出した。中から小振りな容器を出し、蓋を開けている。
「これは私の生まれた村に古くから伝わる薬ですよ。打ち身や捻挫にとてもよく効くんです」
トンジュは言いながら、再びしゃがみ込んだ。どうやら、この薬を塗るらしい。
「―きれいな脚だ」
ふいに、そろりと脹ら脛を撫でられ、サヨンはピクリと身を震わせた。
「トンジュ? 薬を塗ってくれるのではないの?」
サヨンが訝しげに問うのに、トンジュは頷いた。
「私の村は都から少し離れた場所にありますが、はるか昔から様々な薬草を採って、それを売って生計を立ててきたのです。これを塗れば、何とか悪化させずに歩き続けることができるかもしれない」
「そういえば、トンジュの生まれ故郷の話を聞くのは初めてだわ」
少しだけ興味を引かれて訊ねると、彼は淡く微笑った。
