氷華~恋は駆け落ちから始まって~
第6章 運命を賭ける瞬間(とき)
「娘、話すが良い。さりながら、下らぬ話を致せば、即刻、首をはねるぞ」
サヨンの全身に緊張感が漲る。
「お話をお聞き下さり、ありがとうございます」
「そなたの話とやらを聞こうではないか。さあ、聞かせてくれ」
サヨンは頷いた。ともすれば、声が震えそうになるが、何とか普通に聞こえるように最大限の努力を払った。
「明日、大君さまが必要とされる物をこちらに持参致してございます」
「私が必要なもの?」
わざと知らないふりをしている―。サヨンは唇を噛みしめ、膝の上の握り合わせた拳に力を込めた。
「草鞋にございます」
ずばりと言った。このまま押し問答を続けても意味がないと思ったからだ。
「なにゆえ、私が草鞋を必要としていると思ったのだ?」
「それを今、この場で申し上げてもよろしいのでしょうか?」
窺うように見ると、大君の表情がかすかに動いた。
「そなた、明日の計画について、どれだけ知っている?」
「そのご質問にお返しするべき言葉を私は持ちません。商人はお客さまにご必要なものを必要とされるだけご提供するのが務め、余計なことには一切拘わらず、また外には洩らさず知らぬふりをするのが鉄則にございますゆえ」
サヨンが恭しく応えると、大君がホウと小さな息を洩らした。
「良かろう、そなたの草鞋を買おう。数はいかほどある?」
「ざっと見積もっても二千、或いはそれ以上はあるかと」
大君が傍らの清勇を一瞥する。
「草鞋は揃ったのか?」
「はい、あ、いいえッ、まだ必要数の三分の二ほどまでにて」
大君が舌打ちを聞かせた。
「使えぬ奴だ」
「近隣の町村の履き物屋から買い上げようにも、あまり派手に買い占めては目立ちます。人眼につくのは今、できるだけ避けた方がよろしいかと思いまして」
言い訳に四苦八苦する清勇には頓着せず、大君は重々しく頷いた。
サヨンの全身に緊張感が漲る。
「お話をお聞き下さり、ありがとうございます」
「そなたの話とやらを聞こうではないか。さあ、聞かせてくれ」
サヨンは頷いた。ともすれば、声が震えそうになるが、何とか普通に聞こえるように最大限の努力を払った。
「明日、大君さまが必要とされる物をこちらに持参致してございます」
「私が必要なもの?」
わざと知らないふりをしている―。サヨンは唇を噛みしめ、膝の上の握り合わせた拳に力を込めた。
「草鞋にございます」
ずばりと言った。このまま押し問答を続けても意味がないと思ったからだ。
「なにゆえ、私が草鞋を必要としていると思ったのだ?」
「それを今、この場で申し上げてもよろしいのでしょうか?」
窺うように見ると、大君の表情がかすかに動いた。
「そなた、明日の計画について、どれだけ知っている?」
「そのご質問にお返しするべき言葉を私は持ちません。商人はお客さまにご必要なものを必要とされるだけご提供するのが務め、余計なことには一切拘わらず、また外には洩らさず知らぬふりをするのが鉄則にございますゆえ」
サヨンが恭しく応えると、大君がホウと小さな息を洩らした。
「良かろう、そなたの草鞋を買おう。数はいかほどある?」
「ざっと見積もっても二千、或いはそれ以上はあるかと」
大君が傍らの清勇を一瞥する。
「草鞋は揃ったのか?」
「はい、あ、いいえッ、まだ必要数の三分の二ほどまでにて」
大君が舌打ちを聞かせた。
「使えぬ奴だ」
「近隣の町村の履き物屋から買い上げようにも、あまり派手に買い占めては目立ちます。人眼につくのは今、できるだけ避けた方がよろしいかと思いまして」
言い訳に四苦八苦する清勇には頓着せず、大君は重々しく頷いた。