氷華~恋は駆け落ちから始まって~
第1章 始まりの夜
「でもね。今からでも遅くはないと思うの。だから、何とか仕事を見つけるか身につけるかして、一人で生きてゆく方法を考えてゆきたいと思ってる」
「それじゃあ、お嬢さまは俺と別れると?」
「別れるというよりは、それぞれ別の道を歩きましょうという意味よ」
トンジュがサヨンをじいっと見た。
「女将も言っていたでしょう。苦労知らずのお嬢さま育ちのあなたが一人で生きてゆけるはずがない」
「大丈夫、さっきのあなたの台詞じゃないけど、私は丈夫なのが唯一の取り柄なのよ。こう見えて案外、打たれ強いんだから。屋敷を出たのは誰に強制されたわけでもない、自分で決めたことだから、自分の道は自分自身で切り開いてゆきたいの」
「馬鹿な。あなたのような無垢な娘なんて、行き着くところは相場が決まってますよ。一人になった途端、その辺を歩いている男たちにどこかに連れ込まれて慰みものにされた末、最後は妓房に売り飛ばされておしまいでしょうね」
「トンジュ、それはあまりだわ。私、あなたが思うほど世間知らずじゃないのに」
優しいトンジュの口から発せられた言葉とは思えない台詞だ。
サヨンが涙声で訴えると、トンジュは視線を合わせるのを避けるように顔を背けた。
「俺がお嬢さまを守ります。だから、何も無理して苦労したり不幸になる必要はないんです」
「でも」
言いかけようとするサヨンに、トンジュは皆まで言わせなかった。
「できればこんなことは言いたくなかったが、俺は今回の機会にすべてを賭けました。一か八かの賭けに出たのは俺自身の夢を実現させためでもあり、お嬢さまの望みを叶えるためでもあったんです。すべてを棄ててきた俺に、最早戻れる場所はない。その俺を今になって棄てるというのですか」
「棄てるだなんて言い方はしないで。私はあなたと一緒にここまで来たけれど、何を約束したわけでもないのよ。ましてや、女将さんが誤解したように、私とあなたは互いに慕い合って駆け落ちをしたのではない。なのに、何故、私があなたを棄てるという話になるのか判らないわ」
「それじゃあ、お嬢さまは俺と別れると?」
「別れるというよりは、それぞれ別の道を歩きましょうという意味よ」
トンジュがサヨンをじいっと見た。
「女将も言っていたでしょう。苦労知らずのお嬢さま育ちのあなたが一人で生きてゆけるはずがない」
「大丈夫、さっきのあなたの台詞じゃないけど、私は丈夫なのが唯一の取り柄なのよ。こう見えて案外、打たれ強いんだから。屋敷を出たのは誰に強制されたわけでもない、自分で決めたことだから、自分の道は自分自身で切り開いてゆきたいの」
「馬鹿な。あなたのような無垢な娘なんて、行き着くところは相場が決まってますよ。一人になった途端、その辺を歩いている男たちにどこかに連れ込まれて慰みものにされた末、最後は妓房に売り飛ばされておしまいでしょうね」
「トンジュ、それはあまりだわ。私、あなたが思うほど世間知らずじゃないのに」
優しいトンジュの口から発せられた言葉とは思えない台詞だ。
サヨンが涙声で訴えると、トンジュは視線を合わせるのを避けるように顔を背けた。
「俺がお嬢さまを守ります。だから、何も無理して苦労したり不幸になる必要はないんです」
「でも」
言いかけようとするサヨンに、トンジュは皆まで言わせなかった。
「できればこんなことは言いたくなかったが、俺は今回の機会にすべてを賭けました。一か八かの賭けに出たのは俺自身の夢を実現させためでもあり、お嬢さまの望みを叶えるためでもあったんです。すべてを棄ててきた俺に、最早戻れる場所はない。その俺を今になって棄てるというのですか」
「棄てるだなんて言い方はしないで。私はあなたと一緒にここまで来たけれど、何を約束したわけでもないのよ。ましてや、女将さんが誤解したように、私とあなたは互いに慕い合って駆け落ちをしたのではない。なのに、何故、私があなたを棄てるという話になるのか判らないわ」