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氷華~恋は駆け落ちから始まって~

第1章 始まりの夜

 一時かなり烈しくなっていた雪は止んでいる。雲間からひと筋の光が差し込み、蒼月が地上を照らす姿はどこか幻想的であった。
 もしかしたら、自分が犯した決定的な間違いは屋敷を出たことではなく、この男と行動を共にしたことではなかったか。
 酒場の女将は確かに言った。トンジュは信頼できる男だと。
 では、あの女将もトンジュのもう一つの顔を知らないのだろうか。それとも、自分がトンジュという男を誤解しているだけなのだろうか。
 何もかもが判らなくなった今、サヨンにはすべてが絶望的で行く手は闇に閉ざされているように思えてならなかった。
 そう、丁度、今この瞬間、自分を取り巻いている際限ない闇のように。
 涙の幕が張った瞳の向こうで、黄色い月がぼやけて見えた。

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