氷華~恋は駆け落ちから始まって~
第2章 氷の花
「ここから先は山道になるので、傾斜が大きくなります。お嬢さまは脚を痛めているので、少し厳しいかもしれません。もし途中で休みたくなったら休憩を取ります。我慢せずに言って下さい」
トンジュの視線の先には、確かに細い道がうねりながら続いている。これまでは広かった道は急に人ひとりがやっと通れるほどに狭まっていた。その両脇には鬱蒼と茂る樹木が続いており、かなりの急坂だと遠目にも知れた。
「山に入るの?」
サヨンが躊躇いを隠せずに問うと、トンジュは当然だと言わんばかりに頷いた。
「ここまで来れば、とりあえず大丈夫だとは思いますが、まだ安心はできません。山に入ってしまえば、追っ手ももう容易くは見つけられないでしょう。この山そのものはそう高くはないが、頂上は深い森になっています。一度迷い込んだら、よほど森のことを熟知している者でない限り、二度と生きて出られないともいわれているほどですから」
「そんな恐ろしいところに入って、大丈夫なの?」
サヨンが悲鳴じみた声を上げるのに、トンジュは微笑む。
「心配は無用ですよ。俺は森だけでなく、この周囲の地理には詳しいんです。たとえ眼隠しをされたって、無事に森を抜け出られる自信があります」
「でも、私は」
サヨンが口ごもる。
トンジュは探るように上目遣いにサヨンを見た。
「それこそ、お嬢さまが俺から逃げようなんて思わない限り、大丈夫。俺が側にいれば、迷うことはないです」
隙を見て、この男から逃げ出そうと思っているのを見抜かれているようだった。
「どうやら図星だったようですね」
黙り込んだサヨンを見て、トンジュが口の端を引き上げる。皮肉げな微笑を浮かべた彼を見ると、半ば自分を騙すようにして屋敷から連れ出した男の底知れぬ怖ろしさを今更ながらに思い出すのだった。
実際に登ってみると、山道は想像以上に険しかった。既に右足首にかなりの損傷を受けているサヨンは、四半刻も歩かない中に音を上げてしまった。
トンジュの視線の先には、確かに細い道がうねりながら続いている。これまでは広かった道は急に人ひとりがやっと通れるほどに狭まっていた。その両脇には鬱蒼と茂る樹木が続いており、かなりの急坂だと遠目にも知れた。
「山に入るの?」
サヨンが躊躇いを隠せずに問うと、トンジュは当然だと言わんばかりに頷いた。
「ここまで来れば、とりあえず大丈夫だとは思いますが、まだ安心はできません。山に入ってしまえば、追っ手ももう容易くは見つけられないでしょう。この山そのものはそう高くはないが、頂上は深い森になっています。一度迷い込んだら、よほど森のことを熟知している者でない限り、二度と生きて出られないともいわれているほどですから」
「そんな恐ろしいところに入って、大丈夫なの?」
サヨンが悲鳴じみた声を上げるのに、トンジュは微笑む。
「心配は無用ですよ。俺は森だけでなく、この周囲の地理には詳しいんです。たとえ眼隠しをされたって、無事に森を抜け出られる自信があります」
「でも、私は」
サヨンが口ごもる。
トンジュは探るように上目遣いにサヨンを見た。
「それこそ、お嬢さまが俺から逃げようなんて思わない限り、大丈夫。俺が側にいれば、迷うことはないです」
隙を見て、この男から逃げ出そうと思っているのを見抜かれているようだった。
「どうやら図星だったようですね」
黙り込んだサヨンを見て、トンジュが口の端を引き上げる。皮肉げな微笑を浮かべた彼を見ると、半ば自分を騙すようにして屋敷から連れ出した男の底知れぬ怖ろしさを今更ながらに思い出すのだった。
実際に登ってみると、山道は想像以上に険しかった。既に右足首にかなりの損傷を受けているサヨンは、四半刻も歩かない中に音を上げてしまった。