氷華~恋は駆け落ちから始まって~
第2章 氷の花
「―泣いているのですか?」
しばらくして、静かな声で問うてきた。
「泣いてなんかないわ」
それでもサヨンが気丈に応えると、トンジュの低い笑い声が聞こえた。
「相変わらずですね。敵に弱音は吐かず、ですか?」
「それよりも、今の話は本当なの?」
どうしても気になって仕方なかったことについて質問をぶつけてみた。
「今の話?」
見せかけではなく、本当にトンジュは何の話が見当がつかなかったようである。
「狼と猪のことよ。本当に人を食らうの?」
「ああ、あれね」
トンジュは頷き、しばらく無言だった。
「ねえ、教えて。本当に夜な夜な狼が出るの?」
ややあって、トンジュがプッと吹き出した。
「まさか、猪くらいはいるでしょうが、この山に狼はいませんよ。少なくとも、俺はここで生まれ育ちましたが、狼を見たことはいまだかつて一度もありませんね。まあ、この山に棲むのはせいぜいが兎や狐、鹿くらいのものです」
「トンジュ、あなたは私を騙したの?」
サヨンの声が大きくなった。
「そうでも言わなければ、お嬢さまは俺におぶわれようとはしなかったでしょう?」
トンジュは事もなげに言う。
サヨンは、うっと詰まってしまった。確かに、それについては言い訳のしようもない。
「本当に面白い女ですね、あなたは。それに、可愛い」
トンジュが子どもをあやすようにサヨンを揺すり上げた。
「言ったじゃないですか。女を大人しくさせるには、色々と方法があるんです」
サヨンは頬を膨らませた。
「今のは女というよりは、子どもを扱うやり方ではないの? 私は子どもではないのよ」
トンジュが笑った。
「もし、お嬢さまが本当に幼い子どもだったらね。俺もどんなにか良かったと思います。あなたがほんの子どもなら、俺はあなたを攫おうだなんて大それたことを思いつきはしなかった」
「トンジュ、今からでも遅くはないわ。お願い、私を都に、お父さまの許に返して」
懇願するように言っても、トンジュはまともに取り合おうとしない。
しばらくして、静かな声で問うてきた。
「泣いてなんかないわ」
それでもサヨンが気丈に応えると、トンジュの低い笑い声が聞こえた。
「相変わらずですね。敵に弱音は吐かず、ですか?」
「それよりも、今の話は本当なの?」
どうしても気になって仕方なかったことについて質問をぶつけてみた。
「今の話?」
見せかけではなく、本当にトンジュは何の話が見当がつかなかったようである。
「狼と猪のことよ。本当に人を食らうの?」
「ああ、あれね」
トンジュは頷き、しばらく無言だった。
「ねえ、教えて。本当に夜な夜な狼が出るの?」
ややあって、トンジュがプッと吹き出した。
「まさか、猪くらいはいるでしょうが、この山に狼はいませんよ。少なくとも、俺はここで生まれ育ちましたが、狼を見たことはいまだかつて一度もありませんね。まあ、この山に棲むのはせいぜいが兎や狐、鹿くらいのものです」
「トンジュ、あなたは私を騙したの?」
サヨンの声が大きくなった。
「そうでも言わなければ、お嬢さまは俺におぶわれようとはしなかったでしょう?」
トンジュは事もなげに言う。
サヨンは、うっと詰まってしまった。確かに、それについては言い訳のしようもない。
「本当に面白い女ですね、あなたは。それに、可愛い」
トンジュが子どもをあやすようにサヨンを揺すり上げた。
「言ったじゃないですか。女を大人しくさせるには、色々と方法があるんです」
サヨンは頬を膨らませた。
「今のは女というよりは、子どもを扱うやり方ではないの? 私は子どもではないのよ」
トンジュが笑った。
「もし、お嬢さまが本当に幼い子どもだったらね。俺もどんなにか良かったと思います。あなたがほんの子どもなら、俺はあなたを攫おうだなんて大それたことを思いつきはしなかった」
「トンジュ、今からでも遅くはないわ。お願い、私を都に、お父さまの許に返して」
懇願するように言っても、トンジュはまともに取り合おうとしない。