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氷華~恋は駆け落ちから始まって~

第2章 氷の花

「お嬢さまは強い女なんですね」
「別に、強くなんかないわ」
 もし自分が本当に強かったら、李トクパルとの結婚から逃げたりせず、父に最初から正々堂々と〝この結婚はいやだ〟と告げていただろう。
 そうすれば、今、トンジュの背に負われていることもなかったはずだ。屋敷を黙って出ることもなく、トンジュにうまく唆されて、こんな遠方まで来る状況にもならなかった―。
 いかにしても、それを口にできるはずがなかった。
 現実から眼を背けて逃げ出したばかりに、サヨンは余計に追い詰められ、苦境に立たされている。これもすべて自分の弱さが因で起こったことだった。
 やはり、現実ときちんと向き合って、正面から解決法を見つけるべきだったのだ。
「ね、そろそろ降ろして」
 そんなことを考えていると、居たたまれなくなった。この男には指一本だって、触れられたくない。
 トンジュはあっさりと言うことをきき、サヨンを降ろしてくれた。まるで壊れ物を扱うように丁重に降ろされ、かえってますます居心地が悪くなる。
「そろそろ着きましたよ」
 トンジュの声に、サヨンは周囲を見回した。
 樹々が林立する森の中に、突如としてぽっかりとそこだけ拓けた場所がある。それはかなりの広さがあり、小さな家なら十数戸くらいは並んで建つのではないかと思うほどだ。
「ここに家を建てましょう」
「家? ここに住むつもりなの?」
 またしても悲鳴じみた声を上げてしまった。
「俺たちがこれから暮らす家です。漢陽であなたが暮らしていた屋敷のような豪勢な生活はできませんが、不自由はさせないつもりです」
 トンジュは淡々と述べる。
「ねえ、トンジュ。怒らないで聞いて欲しいの。あなたはずっと〝俺たち〟という言葉を使っているけれど、それは止めて」
「何故?」
 気を悪くする風もなくさり気なく問われ、サヨンは彼と眼を合わせていられなくなって、うつむいた。

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