
氷華~恋は駆け落ちから始まって~
第3章 幻の村
「いやーっ」
サヨンは上半身を起こし、素早く立ち上がる。泣きながらトンジュの腕から逃れた。先刻までぐったりとただ棒切れのように横たわっていたのが信じられないような敏捷な動きであった。
一方、男の方はといえば、虚を突かれ、茫然としている。しかし、一瞬の後、トンジュは怒りに眼を細めた。
「くそう」
口汚い罵りの言葉を吐き散らし、トンジュはすぐにサヨンを追いかけた。
まるで逃げる獲物に最後のとどめをさすかのように、トンジュがサヨンに襲いかかろうとする。が、女を捕らえようと伸ばした手は空しく宙をかいた。
「トンジュ、お願いだから、許して」
トンジュがじりじりと迫ってくる。
サヨンは恐怖の悲鳴を上げた。
大木の幹まで追いつめられ、背中が堅い樹に当たるのが判る。身体を樹に押しつけながら、サヨンは両手を拝むようにすりあわせた。
「私、いやなの。だから、お願い、何もしないで。こんなこと以外なら、何でも言うとおりにするから、これだけは止めて。私に触らないでよ」
大粒の涙を零しながら哀願しても、トンジュの双眸からぎらついた光は消えなかった。
むしろ、彼の息遣いが余計に荒くなっている。現実としては、サヨンの必死の懇願はかえってトンジュの欲望を煽っただけだった。
だが、サヨンはそんなことは考えてもおらず、泣きながら訴える。
トンジュは冷酷な男かもしれないが、優しい面も持ち合わせている。今はその優しさに賭けてみるしかなかった。何とかして思いとどまらせなければならない。
「あなたに触るなですって? 今更ここまで俺を煽っておいて、そんなことを言うんですか? 可愛らしい媚態で俺をさんざん誘惑したくせに」
トンジュが昏い声で言った。まるで地の底から這い上ってくるような声。
サヨンはぶるっと身を震わせた。
「誘惑? 私はそんなことはしてない! あなたが勝手に―」
「ホホウ? そうですか。その気もない男の前で、あなたは真冬だというのに服を脱ぎ、裸を晒すのですか? あんな破廉恥な真似をしておいて、俺を誘惑してないなどとよくも言えますね」
サヨンは上半身を起こし、素早く立ち上がる。泣きながらトンジュの腕から逃れた。先刻までぐったりとただ棒切れのように横たわっていたのが信じられないような敏捷な動きであった。
一方、男の方はといえば、虚を突かれ、茫然としている。しかし、一瞬の後、トンジュは怒りに眼を細めた。
「くそう」
口汚い罵りの言葉を吐き散らし、トンジュはすぐにサヨンを追いかけた。
まるで逃げる獲物に最後のとどめをさすかのように、トンジュがサヨンに襲いかかろうとする。が、女を捕らえようと伸ばした手は空しく宙をかいた。
「トンジュ、お願いだから、許して」
トンジュがじりじりと迫ってくる。
サヨンは恐怖の悲鳴を上げた。
大木の幹まで追いつめられ、背中が堅い樹に当たるのが判る。身体を樹に押しつけながら、サヨンは両手を拝むようにすりあわせた。
「私、いやなの。だから、お願い、何もしないで。こんなこと以外なら、何でも言うとおりにするから、これだけは止めて。私に触らないでよ」
大粒の涙を零しながら哀願しても、トンジュの双眸からぎらついた光は消えなかった。
むしろ、彼の息遣いが余計に荒くなっている。現実としては、サヨンの必死の懇願はかえってトンジュの欲望を煽っただけだった。
だが、サヨンはそんなことは考えてもおらず、泣きながら訴える。
トンジュは冷酷な男かもしれないが、優しい面も持ち合わせている。今はその優しさに賭けてみるしかなかった。何とかして思いとどまらせなければならない。
「あなたに触るなですって? 今更ここまで俺を煽っておいて、そんなことを言うんですか? 可愛らしい媚態で俺をさんざん誘惑したくせに」
トンジュが昏い声で言った。まるで地の底から這い上ってくるような声。
サヨンはぶるっと身を震わせた。
「誘惑? 私はそんなことはしてない! あなたが勝手に―」
「ホホウ? そうですか。その気もない男の前で、あなたは真冬だというのに服を脱ぎ、裸を晒すのですか? あんな破廉恥な真似をしておいて、俺を誘惑してないなどとよくも言えますね」
