
氷華~恋は駆け落ちから始まって~
第3章 幻の村
「―そんな言い方しないで。私は本当に熱かったから」
あまりの言われ様にまた涙が込み上げてくる。
トンジュが急に声の調子を変えた。
「お嬢さまは初めての体験にただ臆病になっているだけなんです。怖がらないで、俺の言うことをきいて下さい。俺の言うとおりに従えば、ちゃんと気持ちよくさせてあげますからね」
先刻までの凄みのある声が嘘のような猫撫で声がかえって恐怖を増す。
サヨンは薄気味悪いものを見るような眼でトンジュを見た。
「さあ、追いかけっこはここまでだ。大人しく俺に抱かれる覚悟をなさい」
トンジュがサヨンの腕を掴もうとする。
「いやっ」
サヨンが身を翻したのと、トンジュの手がまたしても宙を泳いだのはほぼ同時のことであった。
「誰か来て! 助けてっ」
サヨンは叫びながら走った。
「馬鹿な女だ。逃げても、どうせ捕まるだけなのに。こんな深い森の奥で一体、誰が助けてくれるものか」
トンジュが呟き、サヨンを巧みに追いつめた。女と男では走る速さは比べものにならない。ましてや、サヨンは右足を酷く痛めているのだ。直にトンジュはサヨンに追いつき、背後からきつく抱き寄せた。
トンジュはサヨンを閉じ込めた両腕にいっそう力を込め、耳たぶをぺろりと舌で舐め上げる。
「捕まえましたよ。本当にどこまでも世話を焼かせるいけないお嬢さまだ」
耳朶を濡れた吐息がくすぐり、サヨンの華奢な身体が嫌悪感に粟立った。
そのときだった。
サヨンの右脚に激痛が走った。
「痛―」
サヨンは顔を苦痛に顔をゆがめ、身体からは急速に力が失われていった。
「お嬢さま?」
流石にただ事ではないと察したのだろう、トンジュがサヨンを抱きしめていた腕の力を緩めた。
サヨンはへなへなとその場にくずおれた。
まるで花が心ない雨に打たれ、散ってゆくようなその姿に、トンジュが顔色を変える。
「サヨンさま? どうしたんです?」
あまりの言われ様にまた涙が込み上げてくる。
トンジュが急に声の調子を変えた。
「お嬢さまは初めての体験にただ臆病になっているだけなんです。怖がらないで、俺の言うことをきいて下さい。俺の言うとおりに従えば、ちゃんと気持ちよくさせてあげますからね」
先刻までの凄みのある声が嘘のような猫撫で声がかえって恐怖を増す。
サヨンは薄気味悪いものを見るような眼でトンジュを見た。
「さあ、追いかけっこはここまでだ。大人しく俺に抱かれる覚悟をなさい」
トンジュがサヨンの腕を掴もうとする。
「いやっ」
サヨンが身を翻したのと、トンジュの手がまたしても宙を泳いだのはほぼ同時のことであった。
「誰か来て! 助けてっ」
サヨンは叫びながら走った。
「馬鹿な女だ。逃げても、どうせ捕まるだけなのに。こんな深い森の奥で一体、誰が助けてくれるものか」
トンジュが呟き、サヨンを巧みに追いつめた。女と男では走る速さは比べものにならない。ましてや、サヨンは右足を酷く痛めているのだ。直にトンジュはサヨンに追いつき、背後からきつく抱き寄せた。
トンジュはサヨンを閉じ込めた両腕にいっそう力を込め、耳たぶをぺろりと舌で舐め上げる。
「捕まえましたよ。本当にどこまでも世話を焼かせるいけないお嬢さまだ」
耳朶を濡れた吐息がくすぐり、サヨンの華奢な身体が嫌悪感に粟立った。
そのときだった。
サヨンの右脚に激痛が走った。
「痛―」
サヨンは顔を苦痛に顔をゆがめ、身体からは急速に力が失われていった。
「お嬢さま?」
流石にただ事ではないと察したのだろう、トンジュがサヨンを抱きしめていた腕の力を緩めた。
サヨンはへなへなとその場にくずおれた。
まるで花が心ない雨に打たれ、散ってゆくようなその姿に、トンジュが顔色を変える。
「サヨンさま? どうしたんです?」
