
氷華~恋は駆け落ちから始まって~
第3章 幻の村
「―寒いの?」
トンジュがサヨンの顔を覗き込むので、サヨンは幾度も首を縦に振った。
無性に悪寒というか寒気がする。チョゴリを脱ぐまではあんなに熱くて汗までかいていたのに。
トンジュはしばらく思案する様子を見せていたが、携帯していた袋を開き、予備の敷物を取り出した。
「布団なんてありませんから、とりあえず、これで我慢して下さいね」
サヨンの身体に敷物を巻き付け、幾重にもくるんでから、身体ごと膝の上に抱え上げた。丁度、サヨンの背中がトンジュの胸に当たる格好だ。
そこで、サヨンの意識が一瞬、飛んだ。
どうやら、眠ってしまったらしい。次に目覚めた時、眼の前では焔が赤々と燃え盛っていた。
一時はあれほど感じた寒気も大分落ち着いてきている。身体がほのかに温まっているのは眼前で音を立てて燃える焚き火のせいだけでなく、身体に巻き付けた敷物越しにサヨンの身体に両腕を回し、しっかりと抱きしめる男の温もりのせいもあるのだろう。
トンジュがサヨンを抱きしめているその姿は、この女は自分のものだ叫びたい所有欲と共に女を守りたいという保護欲の表れでもある。
「眼が覚めましたか?」
顔を覗き込んで訊ねられ、サヨンは頷いた。
「よく眠っていましたよ」
「私、どれくらいの間、眠っていたのかしら」
トンジュが首を傾げ、空を仰いだ。
「そうですね。多分、一刻余り。そう長い時間ではないでしょう」
「ここは本当に昼間でも陽が差さないのね。あなたの言ったとおりだわ」
サヨンもまた力ない視線を動かし、空を見上げる。まだ昼になったかならない時刻だろうのに、空はどんよりとして太陽らしきものは全く見当たらなかった。
「いつもこういう日ばかりだとは限らないんですよ。それに、一日のうちのほんの限られたときだけ、太陽が出る時間帯があるんです。さもなければ、人間はここで暮らしていけやしませんし、花も咲かないし樹も育たない」
「そうなの」
サヨンは頷き、眼を閉じた。眼を開けている元気がなかったからである。
トンジュがサヨンの顔を覗き込むので、サヨンは幾度も首を縦に振った。
無性に悪寒というか寒気がする。チョゴリを脱ぐまではあんなに熱くて汗までかいていたのに。
トンジュはしばらく思案する様子を見せていたが、携帯していた袋を開き、予備の敷物を取り出した。
「布団なんてありませんから、とりあえず、これで我慢して下さいね」
サヨンの身体に敷物を巻き付け、幾重にもくるんでから、身体ごと膝の上に抱え上げた。丁度、サヨンの背中がトンジュの胸に当たる格好だ。
そこで、サヨンの意識が一瞬、飛んだ。
どうやら、眠ってしまったらしい。次に目覚めた時、眼の前では焔が赤々と燃え盛っていた。
一時はあれほど感じた寒気も大分落ち着いてきている。身体がほのかに温まっているのは眼前で音を立てて燃える焚き火のせいだけでなく、身体に巻き付けた敷物越しにサヨンの身体に両腕を回し、しっかりと抱きしめる男の温もりのせいもあるのだろう。
トンジュがサヨンを抱きしめているその姿は、この女は自分のものだ叫びたい所有欲と共に女を守りたいという保護欲の表れでもある。
「眼が覚めましたか?」
顔を覗き込んで訊ねられ、サヨンは頷いた。
「よく眠っていましたよ」
「私、どれくらいの間、眠っていたのかしら」
トンジュが首を傾げ、空を仰いだ。
「そうですね。多分、一刻余り。そう長い時間ではないでしょう」
「ここは本当に昼間でも陽が差さないのね。あなたの言ったとおりだわ」
サヨンもまた力ない視線を動かし、空を見上げる。まだ昼になったかならない時刻だろうのに、空はどんよりとして太陽らしきものは全く見当たらなかった。
「いつもこういう日ばかりだとは限らないんですよ。それに、一日のうちのほんの限られたときだけ、太陽が出る時間帯があるんです。さもなければ、人間はここで暮らしていけやしませんし、花も咲かないし樹も育たない」
「そうなの」
サヨンは頷き、眼を閉じた。眼を開けている元気がなかったからである。
