氷華~恋は駆け落ちから始まって~
第3章 幻の村
「―ご期待に添えなくて、申し訳ありませんでしたね。お嬢さまが何をどう言おうと、今の話は、俺から逃げ出す口実にしか聞こえないんです」
こうなると、売り言葉に買い言葉である。
サヨンは拳を握りしめた。
「逃げようと思っているのなら、もっと早くに逃げたわ!」
「それは無理というものでしょう。あなた一人では絶対にこの山を降りられない」
この男は完全にサヨンを馬鹿にしている。 サヨンはムッとしてトンジュを睨んだ。
「あなたといるのが心底から嫌だと思うのなら、とっくに逃げ出していたわよ」
「途中で道に迷って死ぬと判っていても、ですか?」
トンジュがその時、初めてサヨンを見た。
「ええ、そのとおり。本当に嫌だと思ったら、死んだって構わないから、逃げ出すわ。むしろ、顔を見るのも嫌な人とずっと一緒にいるくらいなら、死んだ方がマシだと思うでしょうね」
「あなたがそこまで烈しい気性だとは思ってもみませんでした。人はやはり、よく付き合ってみないと判らないものだ」
「そうね。私もあなたがここまで偏狭な人だとは思わなかったもの」
「偏狭?」
「ええ、大らかな心で正しく物を見られる男だと信じていたのに、現実は違っていたのね。何て了見の狭い人だろうと失望したわ。ついでに言うと、ここに来てから、初めて本当にあなたから逃げ出したいと思った」
「俺から―逃げ出したいと? 今夜、そう思ったというのですか? 死の危険も厭わないから、顔も見たくないから?」
トンジュの声が一段低くなった。
サヨンがハッとして、彼を見る。彼の瞳は、怒りを剥き出しにしていた。
「どうやら、あなたは自分の立場を判っていないようだ。あなたは俺の囚われ人なんですよ? この際だから、はっきりと言いますが、俺はいつでも好きなときに、あなたを抱くことができるんです。俺が大人しくしているからといって、あまり甘く見ない方が身のためだ」
俺を怒らせると、あなたが怒らせたことを後悔するような方法で罰を受けることになりますよ。
トンジュは殆ど聞き取れないような、かすかな声で告げると、黙って猪肉の燻製に手を伸ばした。
こうなると、売り言葉に買い言葉である。
サヨンは拳を握りしめた。
「逃げようと思っているのなら、もっと早くに逃げたわ!」
「それは無理というものでしょう。あなた一人では絶対にこの山を降りられない」
この男は完全にサヨンを馬鹿にしている。 サヨンはムッとしてトンジュを睨んだ。
「あなたといるのが心底から嫌だと思うのなら、とっくに逃げ出していたわよ」
「途中で道に迷って死ぬと判っていても、ですか?」
トンジュがその時、初めてサヨンを見た。
「ええ、そのとおり。本当に嫌だと思ったら、死んだって構わないから、逃げ出すわ。むしろ、顔を見るのも嫌な人とずっと一緒にいるくらいなら、死んだ方がマシだと思うでしょうね」
「あなたがそこまで烈しい気性だとは思ってもみませんでした。人はやはり、よく付き合ってみないと判らないものだ」
「そうね。私もあなたがここまで偏狭な人だとは思わなかったもの」
「偏狭?」
「ええ、大らかな心で正しく物を見られる男だと信じていたのに、現実は違っていたのね。何て了見の狭い人だろうと失望したわ。ついでに言うと、ここに来てから、初めて本当にあなたから逃げ出したいと思った」
「俺から―逃げ出したいと? 今夜、そう思ったというのですか? 死の危険も厭わないから、顔も見たくないから?」
トンジュの声が一段低くなった。
サヨンがハッとして、彼を見る。彼の瞳は、怒りを剥き出しにしていた。
「どうやら、あなたは自分の立場を判っていないようだ。あなたは俺の囚われ人なんですよ? この際だから、はっきりと言いますが、俺はいつでも好きなときに、あなたを抱くことができるんです。俺が大人しくしているからといって、あまり甘く見ない方が身のためだ」
俺を怒らせると、あなたが怒らせたことを後悔するような方法で罰を受けることになりますよ。
トンジュは殆ど聞き取れないような、かすかな声で告げると、黙って猪肉の燻製に手を伸ばした。