
氷華~恋は駆け落ちから始まって~
第4章 涙月
「どうせ俺なんか、話す価値もないと思っているんだろう! 何しろ、俺は賤民上がりの下男で、あなたは都一の大商人のお嬢さまだものな」
トンジュは自分自身で自分を追いつめている。堪らず、サヨンは振り向いた。
「止めてちょうだい。私は、あなたの世間的立場とか身分に拘っているのではないわ。そんな風に、あなた自身の言葉で自分を追いつめるのは止めて」
「ヘッ、何を綺麗事を言ってるんだ。俺を追いつめ、苦しめているのは俺自身じゃない。今、俺の眼の前にいるあんただろう」
唐突にトンジュの言葉遣いが変わった。これまでの控えめで丁重だったのが嘘のようだ。生まれて初めて耳にするぞんざいなで粗暴な言葉に、サヨンは柳眉をひそめた。
「トンジュ、今のあなたは少しいつもと違っているみたい。話し合うにしても、明日になってからの方が良いでしょう」
「いやだ!」
怒鳴り声が響き渡った。
トンジュは大股でサヨンに歩み寄り、彼女の両肩を掴んだ。
「話をするのなら、今だ」
「今は二人共に興奮しているわ。気が立っているときに話し合っても、かえって諍いの元になるだけじゃない」
サヨンは何とかして自らを落ち着かせようと努力した。
「なあ、どうしてなんだ? どうして俺じゃあ駄目なんだよ? もう一度だけ、よおく考えてくれないか、俺の想いを受け入れてくれ、サヨン」
トンジュがここまで親しくサヨンの名を呼ぶのは初めてのことだ。
しかし、場合が場合だけに、そのことはかえってサヨンに不快感をもたらしただけだった。
トンジュはサヨンの細い肩を掴み、烈しく揺さぶった。あまりに強く揺すったため、サヨンの身体は壊れた人形のようにガクガクと前後に揺れた。
「放して」
サヨンはトンジュの逞しい身体を力一杯押し返した。
「俺には、ほんの指一本触れられるのは嫌だというのか!? 俺に抱かれるのがそこまで嫌なのか?」
トンジュは完全に我を失っていた。サヨンは無意識の中に組み合わせた両手に力を込めていた。
トンジュは自分自身で自分を追いつめている。堪らず、サヨンは振り向いた。
「止めてちょうだい。私は、あなたの世間的立場とか身分に拘っているのではないわ。そんな風に、あなた自身の言葉で自分を追いつめるのは止めて」
「ヘッ、何を綺麗事を言ってるんだ。俺を追いつめ、苦しめているのは俺自身じゃない。今、俺の眼の前にいるあんただろう」
唐突にトンジュの言葉遣いが変わった。これまでの控えめで丁重だったのが嘘のようだ。生まれて初めて耳にするぞんざいなで粗暴な言葉に、サヨンは柳眉をひそめた。
「トンジュ、今のあなたは少しいつもと違っているみたい。話し合うにしても、明日になってからの方が良いでしょう」
「いやだ!」
怒鳴り声が響き渡った。
トンジュは大股でサヨンに歩み寄り、彼女の両肩を掴んだ。
「話をするのなら、今だ」
「今は二人共に興奮しているわ。気が立っているときに話し合っても、かえって諍いの元になるだけじゃない」
サヨンは何とかして自らを落ち着かせようと努力した。
「なあ、どうしてなんだ? どうして俺じゃあ駄目なんだよ? もう一度だけ、よおく考えてくれないか、俺の想いを受け入れてくれ、サヨン」
トンジュがここまで親しくサヨンの名を呼ぶのは初めてのことだ。
しかし、場合が場合だけに、そのことはかえってサヨンに不快感をもたらしただけだった。
トンジュはサヨンの細い肩を掴み、烈しく揺さぶった。あまりに強く揺すったため、サヨンの身体は壊れた人形のようにガクガクと前後に揺れた。
「放して」
サヨンはトンジュの逞しい身体を力一杯押し返した。
「俺には、ほんの指一本触れられるのは嫌だというのか!? 俺に抱かれるのがそこまで嫌なのか?」
トンジュは完全に我を失っていた。サヨンは無意識の中に組み合わせた両手に力を込めていた。
