
氷華~恋は駆け落ちから始まって~
第4章 涙月
「あなたの奥さんになるつもりはないのだと何回言ったら、判るの? 私はもう、こんな生活はいや。今までは、そうじゃなかった。あなたなりに気を遣ってくれているのはよく判ったし、私も何とか上手くやってゆけるのではないかと思っていたわ。でも、やっぱり無理みたい。あなたと私では考え方があまりに違いすぎる」
「何だと?」
トンジュの端正な顔に怒気が閃く。
「もう一度言ってみろ」
トンジュがサヨンの肩を再び掴もうとし、サヨンはトンジュの腕をふりほどいた。
「何度でも言うわ。私はあなたの奥さんにはならないし、あなたという男を理解できない。理解しようと私も少しは努力したけれど、考え方の違いすぎる私たちの間では理解なんて所詮、無理な話なのよ」
「お前までが俺をそうやって蔑むのか? 所詮は賤民だから、下男だから、話をする意味もないと―そう言うのか?」
トンジュの両脇に垂らした拳が小刻みに震えていた。身じろぎ一つせず、懸命に冷静さを取り戻そうとしている。
「あなたは私の言葉を何一つ、まともに聞こうとしないのね。私はあなたの立場がどうこう言ってるのではないの。あなたという人間を理解できないと言っているのよ」
サヨンはトンジュを哀しげに見つめた。
「ここまで言っても私の気持ちが伝わらないというのなら、もう本当に何を話しても無駄だと思うわ」
「サヨン、つれないことを言わないで、もう一度だけ俺に機会をくれないか。そうすれば―」
「もう、止めて」
再び背を向けたのと、背後から抱きすくめられたのとはほぼ時を同じくしていた。
「畜生」
罵声についで、耳を塞ぎたくなる罵りの言葉が聞こえた。
「何をするのッ?」
サヨンは悲鳴を上げた。
トンジュはサヨンを抱き上げ、大股で家に向かおうとしている。
「俺にこれ以上逆らえば、どうなるか判らないと俺は言ったはずだ。必ず後で俺を怒らせなければ良かったと後悔するようなやり方でお前を罰してやるとも警告した」
「私を―どうするつもりなの?」
一瞬、殺されるのだと思った。
「何だと?」
トンジュの端正な顔に怒気が閃く。
「もう一度言ってみろ」
トンジュがサヨンの肩を再び掴もうとし、サヨンはトンジュの腕をふりほどいた。
「何度でも言うわ。私はあなたの奥さんにはならないし、あなたという男を理解できない。理解しようと私も少しは努力したけれど、考え方の違いすぎる私たちの間では理解なんて所詮、無理な話なのよ」
「お前までが俺をそうやって蔑むのか? 所詮は賤民だから、下男だから、話をする意味もないと―そう言うのか?」
トンジュの両脇に垂らした拳が小刻みに震えていた。身じろぎ一つせず、懸命に冷静さを取り戻そうとしている。
「あなたは私の言葉を何一つ、まともに聞こうとしないのね。私はあなたの立場がどうこう言ってるのではないの。あなたという人間を理解できないと言っているのよ」
サヨンはトンジュを哀しげに見つめた。
「ここまで言っても私の気持ちが伝わらないというのなら、もう本当に何を話しても無駄だと思うわ」
「サヨン、つれないことを言わないで、もう一度だけ俺に機会をくれないか。そうすれば―」
「もう、止めて」
再び背を向けたのと、背後から抱きすくめられたのとはほぼ時を同じくしていた。
「畜生」
罵声についで、耳を塞ぎたくなる罵りの言葉が聞こえた。
「何をするのッ?」
サヨンは悲鳴を上げた。
トンジュはサヨンを抱き上げ、大股で家に向かおうとしている。
「俺にこれ以上逆らえば、どうなるか判らないと俺は言ったはずだ。必ず後で俺を怒らせなければ良かったと後悔するようなやり方でお前を罰してやるとも警告した」
「私を―どうするつもりなの?」
一瞬、殺されるのだと思った。
