氷華~恋は駆け落ちから始まって~
第4章 涙月
氷のような冷え切った手の感触に、サヨンは鳥肌立った。
「最初から決めていたんだ。あんたと初めて逢ったあのときから、あんたを女にするのはこの俺しかいないと」
「トンジュ、何を言って―」
「サヨン、やっと俺のものになるんだな」
軽く突き飛ばされ、サヨンはよろけて床に倒れた。急いで起き上がろうとしたか細い身体の上から、トンジュの大きな身体がすかさずのしかかる。
「まさか、トンジュ」
サヨンは必死に手足を振り回して抗った。
「今頃になってやっと気付くとは、鈍いお嬢さんだ。そうだよ、俺はこれからあんたを抱く。あんたは俺に抱かれて、女になるんだよ、今夜、ここでね」
「止めて、馬鹿なことはしないで」
「馬鹿?」
トンジュの陶然とした表情が険しくなった。
「妻が亭主にそんな口をきくのは感心しないな」
「私は、あなたの奥さんにはならないわ。いやだと言っているのに、どうしてこんなことをするの」
「まあ、そう言うなよ。本当は、あんただって俺のこと、満更じゃないんだろう? 大体、世間知らずのお嬢さんが好きでもない男にのこのことついてくるはずがない。あんた自身の心のどこかに、俺になら付いていっても良いという気持ちがあったからこそ、あんたはここにいるんだ」
哀しいかな、この男の言い分は当たっている。サヨンは元々、トンジュが嫌いではなかった。いや、もしかしたら、少しは惹かれていた部分があったかもしれない。
ゆえに、トンジュに唆された時、気持ちが揺れてしまった―。すべての間違いの元はそこにあった。
「いいえ、私はあなたなんか大嫌いよ。顔を見るのもいや」
悔しさのあまり、サヨンは叫んだ。
「何だと、もう一度、言ってみろ」
トンジュが拳を振り上げた。怒りのあまり、綺麗な顔が朱を越えて黒くなっている。屋敷中の女たちの視線を集めていた美男ぶりは片鱗もなく、鬼のような形相と化していた。
―殴られる!
刹那、眼を瞑ったが、身体のどこにも衝撃はなかった。恐る恐る眼を開くと、トンジュがニヤついている。
「最初から決めていたんだ。あんたと初めて逢ったあのときから、あんたを女にするのはこの俺しかいないと」
「トンジュ、何を言って―」
「サヨン、やっと俺のものになるんだな」
軽く突き飛ばされ、サヨンはよろけて床に倒れた。急いで起き上がろうとしたか細い身体の上から、トンジュの大きな身体がすかさずのしかかる。
「まさか、トンジュ」
サヨンは必死に手足を振り回して抗った。
「今頃になってやっと気付くとは、鈍いお嬢さんだ。そうだよ、俺はこれからあんたを抱く。あんたは俺に抱かれて、女になるんだよ、今夜、ここでね」
「止めて、馬鹿なことはしないで」
「馬鹿?」
トンジュの陶然とした表情が険しくなった。
「妻が亭主にそんな口をきくのは感心しないな」
「私は、あなたの奥さんにはならないわ。いやだと言っているのに、どうしてこんなことをするの」
「まあ、そう言うなよ。本当は、あんただって俺のこと、満更じゃないんだろう? 大体、世間知らずのお嬢さんが好きでもない男にのこのことついてくるはずがない。あんた自身の心のどこかに、俺になら付いていっても良いという気持ちがあったからこそ、あんたはここにいるんだ」
哀しいかな、この男の言い分は当たっている。サヨンは元々、トンジュが嫌いではなかった。いや、もしかしたら、少しは惹かれていた部分があったかもしれない。
ゆえに、トンジュに唆された時、気持ちが揺れてしまった―。すべての間違いの元はそこにあった。
「いいえ、私はあなたなんか大嫌いよ。顔を見るのもいや」
悔しさのあまり、サヨンは叫んだ。
「何だと、もう一度、言ってみろ」
トンジュが拳を振り上げた。怒りのあまり、綺麗な顔が朱を越えて黒くなっている。屋敷中の女たちの視線を集めていた美男ぶりは片鱗もなく、鬼のような形相と化していた。
―殴られる!
刹那、眼を瞑ったが、身体のどこにも衝撃はなかった。恐る恐る眼を開くと、トンジュがニヤついている。