恋人⇆セフレ
第8章 したい、させたい
なんとか平静を保って見せたが、その言葉が耳に届いた瞬間、ガンっと鈍器で頭を殴られたような衝撃が走った。
どういうことだよ!?と胸ぐらを掴んでやりたい気持ちだったが、なんとかそれを抑えて耳を傾ける。
「真木さんと家で鉢合わせたあの日から、ずっとぐるぐる考えていたんです。
きっと志乃さんと真木さんがきちんと話し合いをすれば、あっという間にヨリを戻せるんじゃないかって」
話し合い…?
一体なんのだ?真木が女を作った理由か?
「ーー俺が家にいるのを見た真木さんの反応を見て、もしかしたら真木さんには何か理由があったんじゃないかって、思わずにはいられなかったんです。」
「そして、それを知ったら志乃さんは俺の手からすり抜けて行ってしまう。でも、俺は志乃さんが幸せならそれでいいって…思って…。
今日会うのを最後に、真木さんと話し合うように説得しようと心に決めていたんです」
それを耳にして、そういえば朝から様子が変だったことを思い出す。
いつにも増して俺を甘えさせたり、家まで迎えに来たりして。もしかして、猿男に俺を紹介するのを躊躇ったのも、それが原因だったのか…?
小さな塊になって胸の片隅にいたモヤモヤが、あっという間に消え、口角が自然と上がる。
「…お前はいつも一人で先走りすぎなんだよ」
「はい、本当に。だから志乃さんが告白してくれて、余計に嬉しくて、愛おしくて堪らなかった」
くるり。そこでやっと振り返った伊織の顔は、俺が好きだと思う優しい微笑みを浮かべていた。