恋人⇆セフレ
第9章 「初恋の」
「ん、」
と、肩に顔をうずめた伊織の唇が肌を掠めて、擽ったさで身を捩る。
ただ触れただけなのかと思ったが、徐々にはっきりと肌に押し付けられるようになったことで、甘い時間の始まりを悟る。
「おい、伊織、っ」
ちゅ、ちゅ、とリップ音が響き、時折首筋に感じる痛み。
もしかして、跡をつけてんのか…?
「伊織、いたい」
伊織の頭が鎖骨に降りてきたところで止めると、拗ねたような表情を浮かべて鼻先と鼻先をトンとぶつけられる。
茶色の澄んだ瞳が不安で揺れている。
「牽制なんて子供じみたことかもしれませんが、少し付き合ってくれませんか?」
「っ」
ふ、とまた首筋に息をかけられ、吸いつかれた。
今度は止めずに、その甘い刺激を受け入れる。
ーーーもっと俺がお前のものになった自覚を持てと言いたいが、こうなるのも仕方がない。
想いが通じ合った数日後に他の男ーーしかも元カレと取材旅行に行くんだ。俺のことを信用してくれていても、真木を信用することはできないのだろう。
まあ、前の真木の様子は気になるが、付き合っている相手がいる奴に今更どうこうしてくることはないと思うけど。
「かっこ悪いな、俺。自信を持って見送れるって言っておきながら、どんどん行かせたくなくなるなんて」
ぎゅう。とこれ以上ないほど抱きしめられる。
しゅんと垂れた耳が見えた気がして、思わず笑ってしまった。可愛いやつ。
「安心しろ。向こうに行っても連絡するし、帰ったらすぐにお前を呼び出すから」