恋人⇆セフレ
第9章 「初恋の」
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そして、とうとう真木と約束していた火曜日。
電車に揺られること数時間。
背の高いビルやマンションばかり見えていた窓の景色は、いつのまにか木々や田んぼへと変わり、懐かしさに目を細めた。
隣で静かに寝ている男の存在を確かに感じながら、バレないよう静かにため息を吐く。
ーー切符を貰った時点で、どこに行くのかは見当がついた。
俺たちが初めて出会って、一緒に長い時を過ごした故郷。
俺たちのことをモデルにするならば、そこが妥当だろう。まさかこんな状態のまま2人で帰ることになるとは思わなかったけれど。
「澤木先生、着きましたよ」
ポーン。という軽快な機械音のあと、アナウンスされる懐かしい地名。声をかけると、眠りが浅かったらしい真木はすぐに目を開けた。
「あぁ…ありがとう」
「…寝れてなかったんですか?」
「ん、少し緊張してな」
ぎゅ、と指で眉間を押さえた真木がなんとでもないようにそう言う。
だが、隣にいた俺はピシリと固まった。
緊張?地元に帰るのに?そんなわけがない。親との関係も良好な真木だし、これといって気まずい友人もいない。考えるとすればそれはーーー…
ーーいや、深く考えないでおこう。考えるだけ俺らが気まずくなるだけだ。
「今日は家に帰らず、旅館を取っているからそこで宿泊する。そこに一旦荷物を置いて取材に向かう予定だ」
「分かりました。色々準備してくださってありがとうございます」