恋人⇆セフレ
第9章 「初恋の」
真木の家に寄らなくていいのはホッとした。
家に寄ってしまえば、絶対真木の母親主催のパーティーが行われるに決まっている。
何かある度弟を連れて真木の家に寄っていた俺は、最早真木以上に可愛がられていたのだ。会いたい気持ちはあるけど、今は会える状態じゃない。
「そうだ、志乃」
「っぶっ」
と。考え事をしながら広い背中を追いかけていた俺は、突然立ち止まった真木の背中に思いっきりぶつかってしまった。
唐突に襲った痛みに目の前がチカチカと光る。
っいてぇ…。無駄に鍛えてるからお前の体は俺からしたら鋼なんだよ。
「悪い、大丈夫か?」
「だ、いじょうぶです。どうされました?」
「いや、その敬語のことなんだが」
は?と、鼻を押さえながら目を合わせると、大きな温もりに俺の手が包まれて、思考が停止する。
「この旅行中は恋人として接してくれ。だから、その敬語も、先生と呼ぶのもやめてくれ」
「……は、」
一瞬何を言われたのか分からなかった。
きっとアホヅラだろう顔で、こんな時も無表情の真木を見上げる。
なに、言ってんだ、こいつ。
呆然とする俺を置いて、手を握っていない方の手で俺の鼻をすり。と指の背で撫でる真木。
その優しい手つきは、恋人だった頃となんら変わりないもので。漂う空気に甘さが含まれている事に気づいた俺は、慌てて体を離した。