恋人⇆セフレ
第9章 「初恋の」
「そこまでする必要はありますか?」
触れる熱を遮断するように顔を逸らし、冷たく言い放つ。
いくら作品のためとはいえ、俺を馬鹿にするのもいい加減にしてほしい。俺が突き放したのならまだしも、お前が俺を手放したんだ。
なのに、よくも平然とそう言える。
こいつは俺のことを菩薩か何かだと思ってるのか?
「必要だから頼んでる」
「っ」
「これは、お前がいないと完成しない」
「…なんですか、それ…」
なのに、この言い草だ。こいつが俺が怒っていることに気づいてないわけがないのに、謝ることなく、撤回することなく、真っ直ぐに。俺を見て頼んできている。
ーーくそ。
そうだ、真木は昔から小説馬鹿だった。文字ばかり追っていたのに、いつのまにか文字を綴る男になっていた程だ。
きっと、何の打算もなく、本当に作品のためにと俺にこんな馬鹿なことを頼んでるんだろう。
それを断るなんて、担当としてできるわけが無い。
「……はぁ、分かった。わかったから、もう行くぞ。ここで立ち止まると邪魔になるだろ」
「!あぁ、ありがとう」
仕方ねえとため息を吐くと、真木は僅かに顔を明るくして俺の手をぎゅっと握った。
ギョッとして俺らを見る学生がいたが、そんな視線は慣れたものだ。
真木も同じくそうで、さして気にする様子なく俺の手を引きながら静かな駅を出た。
ーー何度も何度もこうして高校まで通った。
それを、また同じように手を繋いで駅をくぐっているのに、お互い気持ちがないなんておかしな話だ。