恋人⇆セフレ
第2章 お前がそうするなら、
「っ」
聞こえて来た声に驚いたのと、腕を引かれたのは同時だった。
背の高いそいつの顔を下から見上げると、いつもとは想像もつかない顔をしていて。
そんな奴の胸の中に抱かれ、包まれた体温に動揺する。
「俺の恋人に何かご用ですか」
「はあ?なんだよお前!」
動揺する俺をよそに、罵倒する男と、冷静に返答するソイツの声が遠くから聞こえているようで。
「なんで…」と呟けば、俺を抱きしめる腕に僅かに力がこもった。
「…行こう」
グイッと肩を抱かれたまま歩き出す。
後ろから「おい!」という男の声が聞こえてくるけど、周りが騒ぎに気づきだしたからか、追いかけてくることはなかった。
しかし、そいつは尚もスピードを緩めることなく、ズンズンと無言で突き進む。
肩を抱く手が痛えよ、バカ。
「…なんでいるのかって顔してますね」
やっとそいつが口を開いたのは、所謂ハッテン場からかなり離れた時だった。
毎朝見ている二重のはっきりとした瞳が、チラリと俺を見る。
いつもは好意的な視線だけど、今日はどこか冷たい。
「俺もなんで貴方があんな所にいたのか知りたいですよ。何してるんですか。分かってますよね、あそこがどんな所なのか」
「いっ」
立ち止まって両肩を強く掴まれると、怒りを見せる男ーーー行きつけのカフェの店員が、強い口調でそう言った。
あぁ、やっぱりコイツは面倒臭い奴だ。
まっすぐ過ぎて、俺には眩しい。
「大人には色々あるんですよ」
「……」
恋人兼セフレだった男が女といて腹が立ってこんなことしたなんて言ったら、余計バカだと思われそうだ。、