恋人⇆セフレ
第9章 「初恋の」
「確かにゼミはちげーけど、美男美女カップルで有名だっただろー!?」
「へえ」
ぷんすこという擬音がピッタリな怒り方が可笑しくて、どんな人物かを詳しく説明されるも全く内容が入ってこない。
染島もアリサちゃんも知らないし、この話はそこで終わるかなと思って箸を進めていると、東にしては小さな声で続きを話し出した。
「それが、アリサちゃん!元カレと浮気したらしーぜ」
「え」
人の恋愛事情なんてどうでもいい。
そういうスタンスで聞いていたけれど、"元彼'と"浮気"というワードに体温が一気に下がった。
進めていた箸も、無意識に止まる。
東はそんな俺に一切気づかず、ヒソヒソと続ける。
「なんか久し振りに元彼と会ったらまた好きになっちゃった〜とかなんとか。アリサちゃん可愛いけど、エグいよな」
「………」
あまり人ごととは思えない内容。
志乃さんのことは信頼している。本当に俺のことが好きなんだと、想いが通じた日に確信している。
けれど、"あの人"がもし、志乃さんのことを諦めてなかったら…?
もし、"最悪の事態"が起きて、志乃さんが負い目を感じて目の前から消えてしまったら…。
ずっとこればかりが頭の中で浮かんでは消えて、朝から無駄に携帯を見ては溜息を吐くの繰り返しだ。もう、自分でも落ち着けよってくらい。
志乃さんに関してだけ、全く余裕なんてないんだ。
「染島もキレてたよ。まあ、許せねえよな。
もしさ、彼女が元彼とヨリを戻したら、藤はどうすんの?」