恋人⇆セフレ
第9章 「初恋の」
「俺?」
「そうそう。藤って全然怒らねーじゃん?ちょっと気になるわ」
もぐもぐと口いっぱいにカレーを頬張る東は、俺の答えが本当に気になっているのか謎だけれど、答えは当然一択だった。
もし、志乃さんが選んだ道なら。
それで志乃さんが幸せなら。
「背中を押すよ」
勿論、傷つかないわけじゃない。絶対暫くは土砂降り気分だろう。それでも、好きな人が幸せなら、その幸せを奪いたいとは思わない。
「菩薩かよ…」
「そうでもないよ。多分、相手の男のことは死ぬほど恨むと思う」
「それでもだわ。俺だったら彼女ごと恨みそう」
「好きな人を恨むことよりも、諦めることに専念した方が自分にとって良くない?」
「おっとな〜」
「なにそれ、バカにしてる?」
わざと怒った様子を出して、あげた残りの南蛮を奪い取る。「申し訳ありません!」と即座に謝ってきたことに笑って、代わりに唐揚げをやると、喜んだ東はまた口いっぱいに頬張った。
ーー実際、志乃さんの意思で"あの人"の元に戻るとは思ってないからこんなことを言えてるだけかもしれない。
でも、もし本当にそうなってしまったら、志乃さんの背中を押して、自分はすっぱり諦められるのだろうか。
そこまで考えて、俺は小さくかぶりを振った。
駄目だなあ。こんなネガティブなこと考えていると本当になってしまいそうだし、やめよ。
箸を止めていたのを進めて、まだ熱々の味噌汁を口に運ぶ。
「というか東、その話はあんまり広めないであげなよね」
「ぶぇーー出た、フジ・マジメ!」