恋人⇆セフレ
第9章 「初恋の」
けれど、伊織はそのことを笑うでもなく、数秒間を置いてから『ごめんなさい』と呟いた。
「なんで、あやまんだ」
『無理矢理させたのに、今すごく嬉しいから』
「…変態伊織」
『だって志乃さんずるいです…。我慢してるのに、そんなこと言われたら、俺が全部してあげたくて堪らなくなります』
ちゅ。と耳元でリップ音が聞こえ、痺れが起きる。まるで本当に伊織にキスされたような錯覚すら起きる。
ちゅ、ちゅ。と幾度も繰り返されるキスに、ピクッと体がその度に震え、吐息を溢す。
「ぁ、いおり、」
耳元で聞こえる伊織の吐息は情事の前に聞いたものと似ていて、自分でやった時にはあまり反応しなかったはずのモノがみるみる勃ち上がり始めたのに気付き、頭を抱えたくなる。
俺だって今すぐ帰って、お前にぐずぐずに抱いて欲しい。
だけどそんなの今は無理なの分かってる。もう、この熱はどう治したらいいんだよ、馬鹿。
ーーーーと、半泣きになりつつ、仕方がないから自分で治めようと手を動かそうとした瞬間。
「志乃?いるのか?」
「っ!」
ガサ、と葉を掻き分けて石段を降りてきた真木に驚いて、一気に体温が下がった。
なんで!?と焦っている俺に気づかず、真木は俺の斜め後ろでピタリと足を止める。
電話の向こうの伊織も、何故か静かになってしまった。
「ーーーここに居たのか。遅いから心配した。こんな所で蹲ってどうした?」