
恋人⇆セフレ
第9章 「初恋の」
「え、は…?」
想定外の言葉に素っ頓狂な声が落ち、目を点にした俺の手が掴まれ、引き上げられる。
「そういうことだから、切るぞ」
ぐん。と顔が近くなり、真木は何を考えているのか分からない表情で携帯を取ると、さも当たり前のように電源ごと切った。
てっきり先に食べておくとかそんなこと言われると思っていた。なのに、引き寄せられた挙句、勝手に電話まで切るなんて。
「…お前、何考えてんの?」
呆然と俺がそう言うと、真木は切れ長の瞳をスゥと細めた。
ザワリ。なんだか嫌な風が起こって、真木の前髪がゆらゆらと揺れる。
俺の心も、ゆら、ゆら、と不安定に揺れている。
「本当に、何してるんだろうな」
「ーー、意味が分かんねえよ。勝手に俺のか、彼氏との電話を切って、なのに理由はないとか、まじで何がしたいんだよ。俺はーーー…」
と、熱がヒートアップするのが分かる。
無視をしておけばいいと分かっているのに、口が止まらない。ずっと溜め込んでいたものがまた爆発する、そんな感じ。
「俺は、昔からずっとお前のことは何一つ分かんなかった!本当に俺が好きだったのかも、なんで俺には笑ったり怒ったりしないのかも!!
もういい加減にしてくれ、俺を振り回すなよ!」
「……」
「もう、お前なんかキラーーー…」
どんなに喧嘩をしても、一度も口にしたことがなかった言葉を叫ぼうとしたその刹那。
冷たい感触が、俺の唇にジワリと広がった。
「ーーーーーー」
大きく目を瞠くと、広がった視界一杯に真木の長い睫毛が映っている。
キスをされている。
そう気づくのに、数秒かかった。
