恋人⇆セフレ
第9章 「初恋の」
「…志乃」
「………」
目線を合わせるように真木がしゃがみ込んでくるが、反応できない。
俺、今目の前にいるこの男と同じことをしてしまったんだ。
そのショックから暫く抜け出さず、啜り泣くことしかできない。
「混乱してるよな」
当たり前だろ。絶対このことはお前の彼女にチクッてやる。大体、前にキスしてきた時二度とやらねえって言ったくせに。
「でも、もう我慢できなかった」
何がだよ。欲求不満だったのか?なら他所を当たれよ、クソ野郎。
「志乃が、他の奴のものになっていくのを見るのは、やっぱり無理だ」
だからーーーー……は?
俺は、そこでやっと真木の目を見ることができた。
「志乃」
真木の顔を見た瞬間、ひゅっと息を飲んだ。
真木の痛みを我慢するような、悲しそうな顔は、初めて見るものだったから。いつもの鉄仮面は外れて、心なしか目が濡れているようにも見える。
なんで、お前がそんな顔してんだよ…?
「志乃…」
とす。とおでこを肩に預けられ、よろめく。
そのまま尻餅をつくけど、真木はそのまま唸るように声を絞り出し。
「好きだ」
とんでもないことを口にした。
沈黙が流れる。暫くは木々が揺れ、小さな川のせせらぎだけが俺たちの間を縫う。
「ーーーーーー真木」
そして、ぽつ。と名前を呼ぶと、真木が顔を上げ、間近で見つめ合う体勢になった。