恋人⇆セフレ
第10章 真と偽
またお前が戻ってきてくれるなんて傲慢なことを考えていたから。
「そんな馬鹿なこと考えてたから、あっという間にお前をとられてしまったんだな」
ぎゅっと、握られた手に力が込められた。
痛い。そう思うより先に、驚きに包まれる。
「…泣いてんの……?」
あの真木が、泣いていたからだ。
静かに、ぱたぱたと綺麗に涙を落としていく。無表情なのに落ちていく涙は悲しく光っていて、ぎゅっと心臓を鷲掴みされたような痛みが走る。
あの真木が泣いている。今までほとんど感情なんて乗せてこなかった顔に、思いっきり悲しみをのせている。
「もう、誰かのものになったお前を見たくない。
好きだ、志乃。
頼むから、執着でもなんでもいいから、俺のそばにいて」
首元を撫でられた。
服で隠しているが、たぶんそこは伊織が散々つけた印が散りばめられている。
きっと、昨日気づいたんだろう。
だから真木はあんなおかしな行動をとったのか…?
今までの変な行動も、全部俺のことを考えてーー?
ぶわりと、熱い何かが込み上がった。
歪んだ視界の中、真木の輪郭に手を伸ばし、辿る。
「…っ馬鹿だろ。お前、本当にバカ。
俺の気持ちを勝手に執着なんていう軽いものでまとめんなよ」
今まで大人ぶってたくせに、不器用な子供みたいだ。
でも、そんな子供にしてしまったのは、ほとんど俺が原因なんだ。
俺は胸元に真木を抱き寄せて、心の中で何度も謝った。
ごめん。ごめん真木。
それから、伊織。ごめん。
俺を許して。