恋人⇆セフレ
第11章 空白
ドクドクと心臓が一気に加速する。
膝の上に乗せていた本は、立ち上がった拍子にバタンと床に落ちた。
「今、どこにいるの」
『やっぱり会ってなかったんだな。とりあえず駅まで来いよ!その近くの飲み屋にいるから』
「分かった」
声が震えそうになるのを抑えて、電話を切る。
ーーーーー志乃さんがいた。
しかも、初めは何度も出向いて待っていた駅近くで。
俺ははやる気持ちを抑えきれず、クローゼットにかけていた上着を引っ掴んで家を出た。
とっぷりと更けた夜の住宅街を、足音を響かせながら走る。
気持ちが先走ってるからか、足がもつれそうだ。
会って何から話すかは全く考えていない。
聞きたかった事が沢山あったはずなのに、会えるかもしれない可能性が出てきただけで、頭の中は「早く会いたい」という気持ちでいっぱいになって。
でも、話したくて堪らなくて。
もう一度志乃さんに会えるのなら、なんでもいいと胸が苦しくなりながら、全力で走った。
志乃さんの元へ。